2012年 7月31日
なぜ防げなかったか

大津いじめ自殺をめぐる社説
学校、市教委の対応を批判

大津市の中学校で昨年10月、いじめに遭っていた2年の男子生徒が自殺した問題で、滋賀県警は11日、暴行容疑で学校や市教委を家宅捜索、異例の強制捜査に踏み切った。一方、文部科学省は全国の公立小中学校を対象にいじめの緊急実態調査実施を決めた。組織や社会の病根を浮き彫りにしたこの問題を、50を超す社・論説が取り上げた。

県警の初動にも疑問

《隠蔽》毎日「自殺後の全生徒アンケートで被害生徒が『自殺の練習』をさせられていたという回答があった。それを確証なしとして市教育委員会が公表していなかった。それがこの3日に表面化し、以後、次々にずさんな対応ぶりや、隠蔽(いんぺい)ともいえる非公開姿勢が露呈した。(略)回答した生徒の失意と不信を思うべきだ」、読売「2回目のアンケート結果に至っては、大半が確認作業さえなされていない。『葬式ごっこ』との言葉もあったが、遺族にも説明していなかった。市教委は『見落とした』と釈明している。一連の市教委の対応は、ずさん極まりないと言うほかない。いじめに向き合う責任感が欠如していると言えよう」、新潟「さらに見過ごせないのは、学校側がいじめを見て見ぬふりしていた可能性が強いことだ。アンケートでも『一緒に笑っていた』など、そうした点を裏付ける回答があった。自殺直前には、学級担任の男性教諭が『いじめがある』と生徒から聞き、男子生徒に確認したが『お互いやっていること。大丈夫』と答えただけだったという」、日経「こうした態度の根っこには、教育委員会という組織が一般行政から独立し、地域の学校ともども『教育のプロ』で固められているという特殊性がある。『教育ギルド』と指摘されるほど排他性が強い。(略)今回のような問題を起こす教委なら、もはや教育にとって害のほうが大きい。文部科学省は副大臣を現地に派遣するなど異例の態勢で臨んでいるが、本当に必要なのは制度の抜本改革である」。

《捜査》京都「県警の初動対応は疑問だ。昨年から遺族が3度も大津署に被害届を提出しようとしたが、『犯罪事実が特定できない』として受理しなかった。自殺との因果関係は別としても、いじめがあったこと自体は昨年11月に市教委が認めている」、産経「自殺から既に9カ月たち、遅きに失したといわざるを得ない。それでも、全容解明は警察の手に任すしかないだろう。(略)県警は『市教委、学校の対応や調査の実態も明らかにしていく』という。まずは何が起きたかを解明してほしい。さらに、自殺後に学校がどう動いたか。市教委の対応や、警察の被害届不受理の経緯も明らかにすべきだ」。

《対策》朝日「教育現場や警察の混乱ぶりに目を奪われがちだが、重要なのは、なぜ生徒の自殺を防げなかったのか、ということだ。どの時点でSOSに気づくことができたのかをきちんと顧みれば、自殺を防ぐ手立てにつながるだろう。それは大津市の立ち上げる調査委員会に期待したい。専門家だけでなく、委員には校区の住民もいれるべきだ」、中国「保護者も調査に協力してほしい。市教委がこれまでアンケートをうやむやにしたのには保護者からの苦情があったためとも聞く。プライバシーの保護は当然だが、問題解決には情報の収集と公開が欠かせない」、琉球「もはや場当たり的対応は許されない。再発防止にも注力すべきだ。各地に人権行政担当と有識者からなる協議会や相談窓口を創設するなど『いじめと自殺の因果関係を明確にする』態勢の構築が急務だ」。

生徒の心のケアを

《責任》高知「学校が捜索される様子を目の当たりにした在校生のショックは計り知れない。『学校は何か隠している』『先生は本当のことを話してほしい』―。子どもたちは学校の姿勢をきちんと見ている。不信感は当然だ。学校や市教委は心のケアに全力を尽くすべきだ。男子生徒は死によって、陰湿ないじめを世に問うた。そして学校や市教委、警察という組織の理不尽さも浮かび上がらせた。死に際してそんな姿しか見せられない大人の責任は重い」、中日・東京「残念だが、いじめは起きてしまう。子どもの世界にはつきもののようなものである。しかし、そこで悪いことは悪いと学び、悟らせるのが親や学校の責務である。尊い命は戻らないが、市教委や学校は責任をもって調べ、真実に向き合う誠実さが必要だろう。それも教育の重要な仕事だ」、信毎「今回の問題は、社会の危険な一面も浮き彫りにした。いじめに関わったとされる生徒の情報がインターネット上に流された。民放の番組の映像を基に調べたとみられる。学校に脅迫文も届いた。どんな理由があれ、ネット上で誹謗あ(ひぼう)中傷するといった人権侵害や悪質な行為は許されない。冷静に問題の本質を見極めたい」。(審査室)

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