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2012年 9月19日
正しく恐れて対策を
南海トラフ地震被害想定をめぐる社説
確率低くても万全を期せ
東海沖から四国沖の「南海トラフ」沿いで巨大地震が発生した場合、関東から沖縄にかけての30都府県で最大32万3千人が死亡するとの被害想定を、内閣府の有識者会議が8月29日に公表した。死者の7割の23万人は津波によるとの推定だが、有識者会議は、迅速な避難により津波の死者は8割減らせるとし、国や自治体に避難施設や避難路の確保を図るよう求めた。「千年に一度」の被害想定を受け止めた約40本の社・論説から。
「揺れたら逃げる」
《正しく恐れる》毎日「想定は東日本大震災で得られたデータも踏まえた推計だ。ただし、『発生頻度は極めて低い』ことに留意すべきだ。有識者会議は『正しく恐れてほしい』と提言した。国、自治体、さらに住民一人一人がとるべき対策を着実に進めることが肝心だ」、中国「衝撃的な内容だ。しかし中国地方に限れば、むしろ被害の傾向や対策の方向が明確になったといえるのではないか。32万人はリスクを最大にみた想定であり、次の地震がそうなるとは限らない。ただソフト面での『減災』対策を手厚くするだけでも多くの命が救えるのは確かだ。いま一度『揺れたら逃げる』心構えを確認しよう」、宮崎「心構えと有効な対策は欠かせない。地震直後に避難すれば県内の津波による死者は1万3千人に抑えられるという。それでも犠牲が多すぎる。巨大地震は必ずやってくるという前提に立ち、この数字を少しでも減らす対策を取らねばならない」、高知「あくまで可能性だが、『最悪』から目をそむけるわけにはいかない。県民一人一人が生き延びることを諦めず、避難路整備など従来の対策を継続、強化していくことが大切だ。(略)巨大地震に備えて国、自治体、住民がそれぞれに考え、やるべきことは数多くある」。
《津波に備える》徳島「言うまでもなく、津波対策で最も重要なのは一刻も早く逃げることだ。内閣府は、地震発生から20分以内に避難を始めれば津波の死者は想定の半分に減るとしている。強い揺れや、弱くても長い揺れがあったら、とにかく逃げる。これを日ごろから心掛けておきたい」、朝日「津波からの避難は、車は渋滞するので徒歩が原則だ。だが、東日本大震災では5割以上が車で逃げた。自力で歩けない家族や、高台が遠くて歩きでは間にあわない人もいる。どんな家庭や地区は車を使ってもよいか、地域で話し合ってゆるやかな合意を作っておきたい」、静岡「県内市町では津波高平均値が最も高いのは下田市と南伊豆町で15メートル。しかも南伊豆町は地震発生から5分で10メートルの大きな津波が襲来するとされる。政府は想定を示すだけでなく、こうした巨大津波が懸念される市町に対し、減災につながる対策費の優先的な確保にも取り組むべきではないか」。
《「想定外」はない》日経「この地震が起きる確率は千年に一度程度とされ、報告書が指摘したように、過度に恐れるのは禁物だ。まれにしか起きない大津波に備えて防潮堤をかさ上げするのも費用対効果の点から現実的ではない。だが頻度が低い災害でも『想定外』としてはならないことは東日本大震災の重い教訓だ」、中日・東京「人的被害は最少の想定では、東海地方で約八万人、近畿地方で約五万人と大きな幅がある。どんな地震動かも分からず、M9クラスの巨大地震の発生確率は低いかもしれない。(略)巨大地震はいつか来る。自分で守るしかないかもしれない。『最悪の想定』を胸に、備えも心構えも万全を期したい」、神戸「被害想定の前提となっている『最大クラスの地震、津波』も発生頻度は極めて低い。しかし、何が起きるか分からないのが災害だ。政府も自治体も住民も、常に最悪の事態を頭に入れておく必要がある。それが命を守る第一歩だ」。
特措法の早期制定を
《法整備を》読売「政府は、関係地域を対象に、必要な防災施設の整備をさらに促進する特別措置法制定の方針を打ち出している。東海地震を対象とした発生予知の範囲を拡大することも検討するという。ただ、地震の予知はできないとの批判もある。その是非を含め、法整備の論議を深めるべきだ」、熊本「巨大津波による被害を最小限にするには、国と自治体が連携し、避難対策の工程表を作り、戦略的に対応することが欠かせない。それには減災に効果的な対策、震災後の復旧・復興のシナリオ作りなどを示す特別措置法の早期制定が必要だ」、産経「東海地震の直前予知を目指す大規模地震対策特別措置法(大震法)をはじめとする現行の対策は、東海地震と東南海・南海地震が切り離されている欠陥がある。中央防災会議の作業部会が提言する、3地震の同時発生やM9級超巨大地震に対応できる「特別法の制定」は大きな課題だ。早急に前進させてほしい」。(審査室)