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2012年 10月2日
脱原発の覚悟見えず
新エネルギー戦略をめぐる社説
国民の理解得る道筋示せ
政府は9月14日、国民からの意見聴取などに基づき、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」との目標を掲げた「革新的エネルギー・環境戦略」を決定、①原発運転を40年に制限②新増設せず③安全確認を得た原発のみ再稼働―の3原則を明記した。しかし、経済界や関係自治体、米国などの反発や懸念を受けて核燃料サイクルは容認。19日には、「原発ゼロ」の表現抜きで今後の方針のみが閣議決定され、さらに不透明感が増した。約70の社・論説から。
「ゼロ」閣議決定せず
《骨抜き》毎日「これでは政策実現への決意が疑われる。野田内閣は、原発ゼロ目標を盛り込んだ『革新的エネルギー・環境戦略』に関し、柔軟に見直しながら遂行するという方針だけを閣議決定し、新戦略そのものは参考文書にとどめた。政府に対する拘束力が弱まり、脱原発は骨抜きになりかねない」、産経「日本経済への影響や原子力関連施設の立地自治体、そして海外との関係など現実を直視しておらず、戦略自体が破綻している以上、閣議決定を見送ったのは当然の結果だ。(略)政府は直ちに原発ゼロを撤回し、原発利用を含めた実効性あるエネルギー政策の策定に踏み出さなければならない」、南日本「なぜ『原発ゼロ』を盛り込んだ方針を閣議決定しないのか、国民への丁寧かつ詳細な説明が必要だ。(略)新戦略の第一歩でつまずくようでは、エネルギー政策の大転換の実現は困難なことを政府は肝に銘じるべきだ」。
《逃げ道》福井「核燃料サイクル政策も破綻している。政府は使用済み核燃料の直接処分研究を進め、再処理事業廃止を探ったが、青森県の猛反発で『当面継続』とした。高速増殖炉もんじゅは実用化せず、研究炉に転換、いずれ廃炉となれば、わが国は核兵器に転用できる大量のプルトニウムを保有することになる」、北海道「核燃料サイクルの中核施設を抱える青森県は、再処理政策が転換された場合、県内に持ち込まれた使用済み核燃料の返還を求めている。(略)これ以上、その場しのぎを続けてはならない。青森県など関係自治体には代替の振興策を用意し、核燃料サイクルに終止符を打つべきだ」、陸奥「『原発ゼロ』の表現を避けたことで戦略の重みはなくなった。これでは明記された核燃料サイクルの維持や、本県を放射性廃棄物の最終処分場にしないことも信用できない。『不断に見直していく』は、国際情勢などに対応するためでなく、四面楚歌(そか)からの"逃げ道"ではないかと疑念を抱く」。
《先送り》信毎「枝野幸男経産相が、青森県の大間原発など建設中の原発について『設置許可を出した原発は、変更することは考えていない』と、建設継続を容認する発言をしている。新戦略決定の翌日である。新戦略に照らせば、こんなことは言えないはずだ」、日経「19日に原子力規制委員会が発足した。原発に対する厳正な安全規制の確立や再稼働など、国民の安心と電力の安定供給のために政府がなすべきことは山積している。今回の経緯が原子力をめぐる一層の混乱を招き、重要な政策判断が先送りになったり、なおざりにされたりしないか心配だ」、朝日「気になるのは、野田内閣が原発再開の可否をすべて規制委に委ねるような姿勢を示していることだ。(略)どの原発を動かし、どの原発を止めるか。その判断は、安全性に加えて、電力需給などの観点からも検討すべきものだ。これは規制委ではなく、まさに政治の仕事になる。政府は具体的な指標づくりの場を設け、作業に入るべきだ」。
「国民に責任を丸投げ」
《本気を》読売「民主党代表選の論戦で野田首相は、『(原発ゼロは)国民の覚悟だ。それを踏まえて政府も覚悟を決めた』と述べた。だが、『原発ゼロ』に伴う失業や貧困のリスクを理解し、苦難を受け入れる覚悟を固めている国民がどれほどいるだろうか。国策選択の責任を、国民の『覚悟』に丸投げするのは誤りだ」、中日・東京「そもそも国民の多くが求めていたのは三〇年までの原発稼働ゼロ実現である。それを最大で十年間も猶予する甘い目標を定め、それすら閣議決定できずに『覚悟を決めた対応』とは聞いてあきれる。できもせず、やる気もないのに選挙目当てで一時的に国民の歓心を買うことを言い、結局、欺くようなことが許されるはずはない」、愛媛「国の未来を左右する重大な戦略が、言いっ放しで立ち消えになることがあってはならず、また国民が政治の言を信じられなければ、実現するはずもない。政府は、具体策や工程表を早急に積み上げ、原発立地地域をはじめ国民の理解を得られるよう道筋を明示し、原発ゼロ社会へ着実に踏み出していく責務がある。問われているのは、政治の『本気』と覚悟、実行力である」。(審査室)