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2012年 12月18日
人災の非難は免れず
笹子トンネル崩落事故をめぐる社説
老朽建造物の補修が急務
山梨県の中央自動車道笹子トンネルで2日、コンクリート製の天井板が長さ約130メートルにわたり崩落、車3台が下敷きになり9人が死亡した。老朽化でつり金具のボルトが壁から抜け落ちており、中日本高速道路の検査の不備も浮上。山梨県警は業務上過失致死傷容疑で中日本本社を家宅捜索した。全国の同じ構造のトンネルの緊急点検ではボルトの脱落や緩みが次々と発覚、補修の遅れが浮き彫りとなった。前代未聞の惨事を34本の社・論説が論じた。
甘い認識、ずさんな管理
《人災》山梨「笹子トンネルは1977年に開通。同社は5年ごとに天井板の点検を行い、最近は9月18日から20日にかけて実施。目視や打音検査の結果、異常はなかった。だが、天井とつり金具を結合しているボルトについては打音検査はしていなかった上、開通から35年間、つり金具ボルトの補修記録はないという。(略)事故は最も重要な安全対策を軽視し、後手に回った結果と言えないか。人災との非難は免れないだろう」、新潟「既に35年も経過しているというのに、ボルトの耐用年数に関する基準がなかった上、補修の記録も残っていなかった。(略)だが、同じように天井板がある関門トンネル(北九州市―山口県下関市)の場合、西日本高速道路は開通から20年たって以降、10年ごとに大規模な補修工事を行っている。事故は、老朽化への認識が甘すぎたことによる人為的な要素もあったとみていい」、中日・東京「これまでボルトを交換した記録がないというのも極めて不自然だ。今年九月の目視検査でも異常は見つからなかったという。細心の注意を払わず、漫然と点検作業をしてこなかったか」、琉球「打音の未実施理由については、つり金具の高さが5.3メートルあるため『手が届かなかった』と説明した。あまりにおざなりの対応だったと言わざるを得ない。(略)事故後に同社は『打音をすべきではなかったか。それが反省点だ』と説明したが、ずさんな管理で命を奪われた人の遺族にどう顔向けできるのか」。
《総点検》読売「この時代(高度成長期)に造られた高速道路などの建造物は現在、老朽化が目立ち、危険性が指摘されている。(略)国交省によると、高速道路だけでも、補修を要するトンネルや高架橋などの損傷が、2011年に約55万5000か所で確認された。05年の約4万7000か所に比べ10倍以上にも増えている。大地震に備える防災上の観点からも、まずは老朽建造物の総点検が急務である」、愛媛「県内でも大洲市と八幡浜市にまたがる国道197号夜昼トンネルが同じ構造だ。緊急点検で計60か所にボルトの緩みや腐食などが見つかった。いずれも軽度で一部の補強で済むようだが、県には補修の必要性や点検方法の是非を徹底検証してもらいたい」。
《国交省》毎日「道路会社を監督する立場の国交省の姿勢も問われる。国交省は、高速道路やトンネルなどの設備点検要綱を定めた各社のマニュアルをチェックしてこなかった。いわば維持管理を道路会社任せにしてきた。こうした指導や監督体制の甘さも厳しく見直さなければならない」、産経「国交省が老朽化に関して打音検査の例示にとどめ、義務づけていないのは怠慢ではないのか。つり天井の生命線はボルトにあり、緩みや脱落が大事故につながる危険性は素人でも予想できる。同社も国交省も、安全を徹底する認識を欠いていたのなら大問題だ」。
新技術活用し長寿命化を
《繕う》朝日「コンクリートの耐用年数はだいたい50年といわれる。道路を例にとると、2029年には全国のトンネルや橋の半分近くがその50年を超える。ひび割れが見つかるなどして通行規制がかかっている橋は、今年4月の時点で1160本あり、08年に比べて1.7倍に増えた。(略)新たなものを『造る』から、今あるものを『繕う』へ。頭を切りかえる時期にきている」、日経「保守・点検に携わる要員の確保が難しくなっているが、一方で作業を効率化する新技術の開発も進んでいる。車が走った時のわずかな振動を小型センサーや光ファイバーでとらえ、トンネルや橋の異常を検知する仕組みだ。こうした技術をもっと普及させるべきだ。損傷が軽微な段階で補修し、インフラの寿命をできるだけ延ばす工夫も要る。(略)道路整備の重点を『造る』から『守る』に変える時だ」、北日本「道路橋も古びている。富山県が管理する長さ15メートル以上の橋807本のうち築50年以上の橋は1割強あり、30年後には8割近くまで占める。15市町村にも計854本あり、各自治体は早めの補修で更新時期を延ばすための『長寿命化修繕計画』を2013年度までに順次策定するという。痛みが激しくなってから修理する対症療法的な管理から、予防保全型へと転換することは費用節約の点でも重要だ」。(審査室)