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商法の一部改正に関する日本新聞協会広告委員会の意見

平成13年8月30日

法制審議会
会長
竹下 守夫 殿

社団法人日本新聞協会
広告委員会
委員長 岩田 安弘

日本新聞協会広告委員会(全国の主要新聞66社の広告責任者で構成)は、先に貴審議会の会社法部会がまとめた「商法改正案要綱案」につきまして、8月22日「見解」を公表して、官報および日刊新聞に加え決算公告のインターネットによる開示を認めることに反対する意見を表明しました。当委員会は、法の実効性を高めるためには現行法の順守・励行に最大限の手だてを尽くすことが先決であり、公告の主たる担い手は、国民各層に幅広く読まれている新聞がふさわしいと考えております。9月5日の審議会総会に先立ち、下記に当委員会の意見をお伝えし、適切な検討を再度お願いする所存です。

現行法の厳正な運用を行うべき

商法は罰則規定を設けてすべての企業に決算書類の開示を義務づけているが、中小企業などはこの法を順守していない実態があり、決算公告は現状では形骸化していると判断せざるを得ない。今回の改正要綱案は、自社ホームページでの開示を選択肢のひとつに加えることにより法の実効性を高めようとしている。しかし、現在、公告をしていない会社がホームページを設けるためインターネット環境を整備したり、ホームページを持っていてもセキュリティー面に多額の費用をかけてインターネットを使って公告するとは考えにくい。

経済の国際化が進展し、会社の規模にかかわらず情報開示は強く求められている。いま行うべき施策は、現行法の厳格な運用であり、インターネットを選択肢のひとつに加えただけではその目的を達成することはできない。今回の改正要綱案は、計算書類の公開の機運をむしろ後退させることが懸念される。

計算書類の公告媒体として官報、日刊新聞紙が特定されたのは、不特定多数の人々に会社情報を開示するにあたり、そのメディアが持つ信頼性、客観性、情報到達の確実性が尊重されたからにほかならない。会社には株主・債権者をはじめさまざまな利害関係者が存在し、これらの人々に対しては、計算書類等の会社情報を、確実にそして何よりも分かりやすい方法で開示することが求められている。インターネットによる開示は、これらの要件を十分満たしているとは言えない。官報、日刊新聞紙への掲載は商法制定当初からの規定であり、その精神は会社に情報公開を積極的に義務づけたところにある。今回の改正要綱案は、情報開示の徹底というよりも、「インターネット上に掲載しておけば」といった安易な風潮を生みかねないもので、情報公開が強く求められる時代に逆行するものと言わざるを得ない。

当委員会は、商法改正論議のつど中小会社に対する情報開示を積極的に進めるべきだと主張してきた。資本調達の手段が多様化した現在、これら中小会社の情報開示に一定の許容範囲を与えることは法の実効性、公平性から問題が多いと考える。

自社ホームページの第三者性

そもそも決算書類等の会社情報は、第三者である媒体に掲載されて、はじめて客観性、信頼性が担保されるのであって、自社ホームページへの掲載はこの「第三者性」の要件を満たすものではない。また、多様な利害関係者にURLの周知をどのように行うかについて、会社法部会でも相当な問題意識をもって議論が行われたと認識しているが、中小会社の反対を予想し、URLの登記所公開を断念するなど情報閲覧者の立場に立った議論が十分行われたとはいえない。

第三者性のない自社ホームページでの開示が認められるならば、自社のPR誌等や企業の賛助金目当ての媒体でも掲載できることになる。いずれにしても「第三者性」の観点からなお議論の余地があり、これを「情報化は時代のすう勢だから」といった理由だけで安易に認めることは商法に規定された公告制度の趣旨をゆがめることになる。

デジタルデバイド(情報格差)問題の深刻化

インターネットは最近急速に普及しているとはいえ、新聞と比較するとその普及率の違いは歴然としている。特に証券保有率の高い中・高年齢層のインターネット普及率はきわめて低い。こうした現状で法定公告をインターネットで開示することはデジタルデバイドの観点から問題が多い。年代だけでなく、地域間でもインターネット普及率に格差があり、インターネットは不特定多数への公告媒体としては不適格であることは明らかである。「中間試案」において、デジタルデバイド問題への配慮は重要検討事項であると明記されていたが、この点について十分な検討が行われたとは思えない。

セキュリティー問題も、会社がホームぺージ監視者を常備配置するなどの物理的な自衛手段を講ずる以外に対抗手段がないのが実情である。法務省はホームぺージでの公告に当たってはデータが改ざんされないよう会社に義務づけるとしているが、セキュリティーに万全を期せばコストアップは免れず、その意味ではインターネットは「安価で容易な媒体」とは言えない。またセキュリティーを強化すればするほど、アクセスに手間がかかり、計算書類等に容易にたどり着けないなど、情報閲覧者に多大な負担を強いることになる。

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