「電気通信事業における重要通信の在り方に関する研究会」報告書(案)に対する日本新聞協会技術委員会の意見
平成15年5月9日
社団法人日本新聞協会
技術委員会委員長 佐藤 雅徳
報道各社は、平成7年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)に際し、その発生直後から防災関係官公庁に先駆けていち早く記者を被災現地に派遣し、その模様を速報しました。一連の報道は一般の読者・視聴者に現地の状況を詳細に伝えたばかりでなく、ボランティア参加のよびかけは、その後の救援活動に大きな力となりました。とりわけ震災発生直後の情報は政府・行政・防災関係者にとって、災害規模・被害状況を全体的に把握し、救助・救援活動の対応準備を進めるうえで大きな役割を果たしました。
電気通信事業法第8条において、新聞社等報道機関の通信は重要通信として、優先取り扱いの対象に挙げられています。前述のような報道の役割の重要性に鑑み、今後も有線、無線を問わず、報道機関は優先取り扱いの対象とするよう求めます。
日本新聞協会技術委員会の意見
大規模な災害などの緊急時に重要な通信が確保されなければならないのは、一般論として当然である。研究会報告書概要の「第7章 今後の取組」に記載されている、例えば「電気通信事業者及び関係各機関の円滑な連携」は緊急時に不可欠であるし、重要通信を確保するため電気通信事業者が順守すべき事項のルール化も進めなければならない。また、「携帯電話における重要通信確保のための今後の取組」、「IPネットワークにおける重要通信確保のための今後の取組」など、「第7章 今後の取組」記載の他の事項についても概ね妥当な内容である。したがって、総務省が進めている緊急時の重要通信の確保に関する構想に、当委員会としても大筋では異論がない。
ただ、2点を指摘しておきたい。
第1点は、電気通信事業法第8条および同法施行規則第55条に規定される「新聞社等」の取り扱いについてである。電気通信事業法第8条は前段で、非常事態の際に電気通信事業者は「災害の予防もしくは救援、交通、通信もしくは電力の供給の確保又は秩序の維持のために必要な事項を内容とする通信を重要通信とし、これを優先的に取り扱わなければならない」と規定し、後段で「公共の利益のため緊急に行うことを要するその他の通信であって総務省令で定めるものについても、同様とする」と規定する。そして、これを受けた同法施行規則第55条は、警察機関、海上保安機関、気象機関等々と並んで「新聞社等の機関相互間」を挙げ、「天災、事変その他の災害に際し、災害状況の報道を内容とするもの」を重要通信と位置づけて、これを優先的に取り扱うよう電気通信事業者に義務づけている。いわずもがなのことではあるが、緊急時の重要通信の確保に関する今後のさらなる整備においても、新聞社など報道機関による災害状況の報道のための通信については、社会公共の見地から従来どおりの優先的取り扱いが継続されなければならない。
第2点は、この構想の随所に見られる国の主導的役割についてである。
例えば、上記「第7章 今後の取組」には、「重要通信を確保するために電気通信事業者が遵守しなければならない事項については、国が具体的な基準を定め、ルール化していくことが必要」あるいは「今後、優先度のクラス分けを導入する場合には、各携帯電話事業者が共通の基準に従って優先取扱いが行われるよう、国が必要な基準を定めることが必要」など、国の主導的役割に言及した多くの記述がある。緊急時における重要通信確保の実効を期すためには、国が主導的役割を果たすこともたしかに必要ではあるだろう。そのことを当委員会として認めたうえでなお、国には重要通信確保の体制整備にあたり、憲法で保障された通信の秘密や国民のプライバシー保護には十分すぎるほどの配慮をするよう望んでおく。
また、「第7章 今後の取組」には、携帯電話からの緊急通報の際、その携帯電話の位置を表示する機能を導入することが検討課題に挙げられているが、たとえ緊急時でも取材は密行を要することから、報道機関の取材連絡用の携帯電話についてはその対象としないよう求めたい。
以上