公正取引委員会「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」に関する見解
2023年10月5日
一般社団法人日本新聞協会
公正取引委員会は9月21日、「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」を公表した。日本新聞協会加盟社の多くはインターネット上でニュースサイトを運営しており、ニュースポータルや検索サービスなどの大手プラットフォーム(PF)事業者と競合しうる。報告書はPF大手が報道機関に対し優越的地位を占め、独占禁止法違反になる可能性があることを明示したうえで、プラットフォーム大手と報道機関の健全な交渉を促し、交渉力格差をただすための具体的手段も挙げている。「ニュースコンテンツが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠」とする報告書の趣旨を踏まえ、ネット上の健全な言論空間を守るため、PFは報道機関と真摯(しんし)に協議するよう求める。
報告書は、ヤフーニュースやLINEニュースのような、報道各社から記事や写真等を仕入れるニュースポータル大手が、優越的地位に乗じて報道機関側に著しく不利な取引を押しつけないよう、報道機関に対する情報開示や、取引の透明性を求めている。ニュースポータルは、仕入れたニュースコンテンツで得た広告収入の総額や還元した配信料を報道機関に開示し、配信料の算定基準を説明すべきだ。報告書では、配信料の算定にあたって「ニュースポータルにおける広告収入以外に生じるニュースポータル事業者の収益への貢献の程度についても反映することが望ましい」としており、ポータルサイトはニュースコンテンツが持つ集客効果などの価値に十分配慮した配信料とする必要がある。
また、大手ニュースポータル事業者が記事の内容に行き過ぎた介入をすることも報告書は懸念している。新聞に限らず、雑誌や放送局、フリーライターなども含めたジャーナリズムの担い手にとっては言論・表現の自由に関わる問題であり、ニュースポータル事業者は指摘を重く受け止めるべきだ。
一方、報告書はグーグルに代表される検索サービス事業者について「消費者は、インターネット検索において、スニペット等の閲覧によりニュースコンテンツを一定程度消費している」とし、「十分な交渉等を通じて、対価等の取引条件の設定を含め、共通認識が得られることが望ましい」との考えを打ち出した。諸外国では、検索事業者やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)事業者がスニペット等の利用料を報道機関に支払うことを義務づける動きが広がっている。検索事業者はニュースサイトの「ゼロクリックサーチ」問題等をもたらしている実態に即し、国内の報道機関との間でも対価をめぐる交渉に応じるべきだ。
また、報告書の趣旨を踏まえ、PF事業者は報道各社が運営する媒体の名前やロゴがニュースポータル上でより目立つようにレイアウト変更を求めたり、報道業界に共通する経営的課題を文書にまとめて伝えたりした場合には、誠実に対応することが求められる。
報告書に先立ち、公取委は21年2月に「デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」を公表。ニュースポータルや検索サービスにおける問題点を指摘し、報道機関との適切な交渉の実施を含め、プラットフォーム事業者に改善を促した。しかし、公取委が22年8~11月に行った追加調査では、「実質的な改善が進んでいないことがうかがわれた」とし、今回の報告書の公表に至った。この10月には、ヤフーとLINEが本格統合した。公取委による統合審査(20年8月終了)で当協会は、両社の経営統合によってニュース流通市場での寡占がさらに進む問題点を指摘しており、公取委は本格統合後の動向に一段の注意を払ってもらいたい。
報道機関がPF事業者や検索事業者との交渉で適正化をはかるには、現行の法制度では限界も見える。ニュースコンテンツを取り巻く法制度のあり方を見直すことも視野に入れ、政府に対しては不断の取り組みを求めていく。
以上