NHK経営計画(2024-2026年度)(案)に対する意見
2023年11月9日
一般社団法人日本新聞協会
メディア開発委員会
日本新聞協会メディア開発委員会は、今般示された「NHK経営計画(2024-2026年度)(案)」に対して以下の通り意見を述べる。
NHKは今般示した経営計画案で2023年10月からの受信料の値下げを踏まえ、24~26年度は赤字予算を編成した。27年度の収支均衡を目指し、事業規模を段階的に縮小するとの方針を示しているが、不断に業務範囲の見直しを進め、国民・視聴者に還元していくことは重要だ。他方、かねて指摘している通り、予算の編成段階では厳しい見通しを示しながら、結果、黒字となり、収支差金を繰越金に蓄積していくという構造的な課題がある。18年度以降、毎年度の決算は予算から200億円以上の上振れがあり、21年度はその差額は630億円に達した。22年度は収支均衡予算だったが、決算段階で263億円の黒字を計上した。
これを踏まえると、より早期に収支均衡を実現できる可能性がある。過去最高の2618億円にまで積み上がった「財政安定のための繰越金」の一部を受信料の値下げに充てるとしているが、原資をさらに確保できる余地もあるのではないか。子会社を含むグループ全体を含め公共放送が担うべき業務範囲を明確化し、受信料のさらなる値下げにつなげるべきだ。
経営計画案では、構造改革による経費削減の一例として「既存のデジタルコンテンツの整理・見直し」との記載があるものの、具体的にインターネット活用業務をどう見直すかは示されていない。「ネット上でも、NHKが培ってきた『価値判断』を活かした総合編成的な機能を取り入れる」「デジタル連動の新しいニューススタイルの開発」など、ネット業務をさらに拡大するとも読み取れる記述もある。
総務省の「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」は、NHKのネット業務の必須業務化とともに「理解増進情報」の廃止を提言した。理解増進情報をめぐっては、受信料制度との矛盾や競争の不公平さ、制度の拡大解釈などの課題が繰り返し指摘されていた。23年度のネット業務に関する費用は197億円で、このうち同時配信と国際配信を除いた100億円の大半が理解増進情報に関する費用だと考えられる。廃止が提言されており、100億円規模の支出削減が予想されるにもかかわらず、計画案で言及がない点は違和感を拭えない。また、今後、必須業務として実施できるネット業務の範囲や提供条件について協議していくとされていることを踏まえれば、早期に今後の方針や具体的なサービス像を示すべきだ。
ガバナンス強化については、監査委員会の機能充実や、経営委員会・執行部の定期的な会議体を設置することなどが盛り込まれている。衛星放送のネット配信予算問題によって明らかになったのは、経営委と執行部の責任の所在の整理など、ガバナンスの抜本的な改革の必要性だ。これまでNHKが示してきた再発防止策や今回の経営計画案によって、果たして十分なガバナンス体制が構築できるか、また今回のような問題を防げるかどうかは全く明らかでない。総務省の公共放送ワーキンググループ(WG)でも、構成員からガバナンスについて検討を求める意見が相次いで寄せられた。ガバナンスは「三位一体改革」の重要な要素だ。ガバナンス強化の方策をより明確かつ具体的に盛り込むよう求める。
NHKに求められる役割の基軸として「信頼できる多元性確保」への貢献を位置づけたこと、また、「基幹となる二元体制維持」と「メディア産業全体のために」として具体的な予算規模とともに取り組む方針を示したことは適当だ。後者について、オリジネーター・プロファイル技術研究組合への参加などの言及はあるが、より具体的に方針を示すことを求める。
当委員会はこれまで総務省の有識者会議などで、NHKのネット業務拡大に対する懸念を示してきた。言論の多様性やメディアの多元性にかかわる重要な論点であるとともに、これまで「理解増進情報」の名目でのなし崩し的な拡大があったためだ。地方新聞社の観点からも、「NHKのネット業務はすでに大きな脅威であり、地方紙の予算規模を大きく越えるNHKのネット業務拡大が地域ジャーナリズムの存続を脅かすことは明らかだ」「言論の多様性やメディアの多元性を担保する上で重要な地方紙、あるいは地域ジャーナリズムにとってNHKのネット業務拡大は大きな脅威になり得る」といった声が上がっている。
不確かな情報の拡散やエコーチェンバーなど情報空間の課題が顕在化する一方、ジャーナリズムの担い手不足が全世界の課題となっている。日本では、公正取引委員会が9月に公表した報告書で、「ニュースコンテンツが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠」と明示した。NHKが情報空間の多元性確保を強調している点は、多様なメディアが信頼性の高い情報を提供し続けていく必要があるという当委員会の問題意識とも重なる。メディアの多元性を重視している以上、NHKには公正競争の確保という視点に立った業務を求める。
以上