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総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」の とりまとめ(案)に対する意見

2024年8月20日

一般社団法人日本新聞協会

 日本新聞協会は、総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」のとりまとめ(案)に対し、以下の意見を述べる。

プラットフォーム(PF)事業者に主体的な取り組みを求めるべき

 とりまとめ(案)は、デジタル空間における情報の「発信」「伝送」「受信」の各過程でステークホルダーがそれぞれの役割・責務を遂行することで、情報流通の「健全性」が確保されると記載している(P.7)。しかし、偽情報や誤情報の発信・拡散を容易にするとともに、フィルターバブルやエコーチェンバーなどアテンション・エコノミーによる様々な課題を引き起こしているのはPF事業者のサービス設計によるところが大きい。PF事業者が情報流通を担う責任を自覚し健全な言論空間の維持に向け主体的に取り組むことが、各ステークホルダーの協力・連携の前提だと考える。この点に関し、とりまとめ(案)で十分に記載されていないことは残念だと言わざるを得ない。

 偽・誤情報の流通・拡散などの問題により、「民主主義の前提となる個人の自律的な意思決定が脅かされ、権利侵害や社会的混乱が発生している」とのとりまとめ(案)の指摘は、当協会の問題意識とも共通する(P.184)。生成AIの急速な発展に伴い、健全な言論空間や情報流通に対する懸念はさらに高まっている。PF事業者の自主的な対応が不十分なためで、PF事業者はこれを重く受け止めて真摯しんしに対応すべきであり、今回のとりまとめにおいてもPF事業者の責務をより強く打ち出すべきである。

ファクトチェックの推進に関する伝統メディアの役割・責務の記述について

 デジタル空間の健全性確保に寄与するために、他のステークホルダーと連携・協力することに関しては、異存はない。ただし、これまでも申し述べてきた通り、ファクトチェックという語句に対する共通認識が形成されないまま、対象を「ファクトチェックの推進」に特定して「伝統メディアに期待される役割・責務」を、とりまとめ(案)に盛り込むことには慎重であるべきだと考える(P.292)。「報道機関の役割・責務」は、正確で公正な情報を発信していくこと、社会に大きな影響を与えかねないテーマについて検証・報道していくことである。新聞協会の会員社は、政権等の権力に対しては日々検証・報道している。また、不確かな情報が社会に重大な影響を与えかねない際は、報道の役割を果たすため、積極的に真偽検証に取り組んでいる。

 検討会の会合では構成員から、報道活動上の真偽検証と、厳格な意味でのファクトチェックは違いがあるとの発言もあった。その後の議論でも、ファクトチェックの定義について十分な合意形成がなされたとは言えない。議論がつくされたとは言えない中、伝統メディアが「ファクトチェックの推進」に責務を負うかのような表現には違和感を覚える。

 無数に存在する偽・誤情報に対してデジタル空間の健全性を保つには、それらの流通をも容易にする場の提供をビジネスにし、収益を得ているPF事業者が主体的に対応しなければ、根本的な解決にはつながらないと考える。

 また、第6章「総合的な対策」の「人材の確保・育成」では、「伝統メディアに期待される役割・責務」として、「デジタル空間で流通する情報の収集・分析を含む取材に裏付けられ、偽・誤情報等の検証報道・記事や偽・誤情報等の拡散を未然に防ぐコンテンツを含む信頼できるコンテンツを発信する」人材の確保・育成などと記されている(P.288)。新聞協会の会員社は、各社の報道方針に従ってそれぞれの資源を投じて人材を確保・育成しており、一定の方向付けを伴う人材育成に責務を負うかのような表現を使うことは適当ではないと考える。

 「別紙」の第2章には、「客観的な有害性」及び「社会的影響の重大性」がともに小さい一定の類型の情報については、対応を検討すべき「偽・誤情報」の範囲に含まれないものと考えることが適当である、と記載されている(P.323)。「一定の類型の情報」とは、パロディ・風刺のほか、伝統メディアによる誤報などが該当するとされる(脚注406、407)。報道機関が取材を尽くして真実相当性を担保してもなお結果的に誤ってしまった情報と、「偽・誤情報」とは明らかに異なる。この点は明確に記載すべきである。

デジタル広告エコシステムをめぐる諸課題について

 新聞に掲載される広告に関し、当協会は1958年に制定した「新聞広告倫理綱領」で、不当な広告を排除して読者の利益を守ることを宣言している。新聞社の広告審査担当者は、日々入稿される広告原稿が法令や倫理に適合しているかを確認し、読者の信頼に応えるよう努めている。

 新聞社が運営するウェブサイトに対し、広告仲介プラットフォーム事業者から各社の広告掲載基準に満たない広告が配信されることがある。なりすまし広告や詐欺広告などSNSを悪用した深刻な社会問題も生じている。新聞各社はアドベリフィケーションツールを導入するなど、本来広告仲介プラットフォーム事業者が負担すべきコストや労力をかけ、不適切な広告を利用者に発信しない対策に、真摯に取り組んでいる。

 デジタル広告エコシステムをめぐるリスク・問題への対策が喫緊の課題であることは明らかである。とりまとめ(案)は「別紙」第5章で「違法・不当な広告」の範囲に関し、「当該広告そのものが有する権利侵害性その他の違法性や客観的な有害性(及びその明白性)」「当該広告が流通・拡散することによる社会的影響の重大性(及びその明白性)」の有無・軽重に照らして検討すべきとの方針を示した(P.343)。違法・不当な広告への対策を講じることに異論はない。その際、健全な広告活動が過度に規制されることがないよう慎重な議論と対応を求める。

 広告仲介プラットフォーム事業者による広告審査機能の強化と透明性の確保は重要な課題であり、迅速な取り組みが必要である。「違法・不当な広告が掲載されたウェブページの管理者や、当該広告に隣接して掲載されたコンテンツの発信者、広告関係団体等からの申出・要請を契機とした広告掲載停止措置」については、悪質な広告からサイト利用者を保護するため、実効性がある対応を求めたい(P.347)。

 信頼度の高い良質なメディアへの広告配信を促進する対策として、「別紙」第6章で「媒体社(パブリッシャー)と広告主を限定したクローズな広告の取引市場であるPMP(Private Marketplace)の活用」「広告掲載品質の確保のための質の高いメディア(パブリッシャー)の真正性・信頼性確保技術の活用」、メディア審査や広告配信停止措置に関する「基準の策定・公表と運用状況の公開」「実施体制の整備及び透明化」(P.350、351)などを示した。正確で信頼できる情報を発信している広告媒体が正当な評価を受けることが期待できる対応であり、議論の方向性を注視したい。合わせて、デジタル広告に関するリテラシー向上の社会的機運を高めることも重要である。

今後の検討では、報道機関への法的規制につながらないよう慎重な検討を

 「別紙」の第4章「マルチステークホルダーによる連携・協力の枠組み整備の在り方」では、各ステークホルダーの協議に機能不全が生じた場合は、「補完的に政府が関与する」との記述がある(P.339)。また、情報流通の健全性確保に向け「各ステークホルダーに求められる取組に関するガイドラインや行動規範を策定・推進」するとの記載もある(同)。読み方によっては、補完的な政府の関与が伝統メディアの取り組み、とりわけ取材・報道に関わる活動に影響を及ぼす可能性がある。万が一、報道機関への法的規制につながるようなことがあれば、国民の知る権利が毀損きそんされかねない。今後、慎重な検討を求める。

以上

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