NHK経営計画(2024-2026年度)の修正案に対する意見
一般社団法人日本新聞協会
メディア開発委員会
日本新聞協会メディア開発委員会は、今般示された「NHK経営計画(2024-2026年度)の修正案」(以下、修正案)に対して以下の通り意見を述べる。
ネット業務の全体像と具体像を明確にするよう求める
- 放送法改正により、NHKのネット業務は「必要的配信業務」と「任意的配信業務」に分けられることになった。必要的配信業務の一部は「NHK番組関連情報配信業務規程(業務規程)」で、任意的配信業務は「NHKインターネット活用業務実施基準」でそれぞれ規定される。性格が異なる2種類の枠組みができ、NHKのネット業務に関するルールは複雑化している。外部から検証できるよう、ネット業務の全体像を示す計画を策定すべきだ。
- 番組関連情報の業務規程は示されたものの、サービスの具体像など明確でない部分も多い。ユーザーにどのような形式でサービスを提供するのかなどが定かではないため、NHKが重視するとしている「放送との同一性」が担保されるか判断できない。番組関連情報の基本原則として「インターネットの視聴習慣・特性に対応して届け方を工夫する」との方針が示されているものの、解釈によっては同一性を逸脱しかねず、同じく基本原則で示された「公正な競争」と「メディアの多元性」の毀損(きそん)につながりかねない。具体的なサービスイメージを早期に示すよう求める。
- 現状では、任意業務の展開にも不明確な部分が多い。とりわけ「周知広報」や「3号業務」の名目での業務拡大を懸念している。「任意的配信業務」や附帯業務が必要的配信業務の範囲を超えて展開されることのないよう明確に規定すべきだ。
「誤受信防止措置」はフリーライドを防ぐ仕組みとすべき
- NHKは新たなサービスで「誤受信防止措置」を講じるとしており、「確認ボタン」を押すことで受信に移ると説明している。しかし、受信契約を厳密に求めない現状の説明では、ユーザーが事実上無料で継続的にNHKのネットサービスを利用できることになりかねない。スマートフォンでも手軽に利用できるようになれば、事実上無料になることの影響は極めて大きい。フリーライドを助長しかねない対応であり、ネットのみの利用でも受信料の支払いや受信契約を求めるという法改正の趣旨に反する。
- 会員制のインターネットサービスを利用する際、ユーザーは事前に登録したID・パスワードでログインするのが一般的だ。NHKの示した誤受信防止措置はユーザーの誤解を招く可能性が高い。受信料の支払いが必要だと理解しないまま継続的に受信すれば、契約に際するトラブルが頻発するような事態になりかねない。放送の視聴を目的とするテレビとは異なり、汎用(はんよう)型端末であるスマートフォンに即した仕組みが望ましい。誤受信防止措置と契約勧奨を一体で検討し、フリーライドを防ぐ仕組みとすべきだ。
実態に即した予算編成と不断の業務見直しが欠かせない
- NHKはこれまで予算の編成段階では赤字を見込みながら、結果として黒字を積み重ね、収支差金を繰越金に蓄積していくという構造的な課題があった。受信料値下げの影響で2023年度から赤字予算を編成しているものの、23年度の決算では赤字幅が136億円と、予算段階の280億円から半分以上圧縮された。今回修正された24年度と25年度の予算案でも赤字幅に変更はない。より実態に即した見通しを示し、予算の妥当性を検証可能にすべきだ。
- NHKは26年度から収支均衡予算を編成しているが、早期に黒字を達成できる可能性がある。その場合、値下げの原資をさらに確保できる。不断に業務内容の見直しを進めるとともに、子会社の内部留保を活用しながらさらなる受信料の値下げなどによって国民・視聴者に還元していくことが重要だ。
メディアの多元性を意識した業務展開を
- NHKと民間企業は財政基盤が異なり、両者の間に公正な競争は成り立ち得ないことは前提だ。民主主義社会の基盤である「メディアの多元性」を損なうことがない業務展開を求める。
- 不確かな情報の拡散など情報空間の課題が顕在化する一方、ジャーナリズムの担い手不足が全世界の課題となっている。NHKが情報空間の多元性確保を強調している点は、多様なメディアが信頼性の高い情報を提供し続けていく必要があるという当委員会の問題意識とも重なる。今回、多元性確保のために確保した積立金の使途を25年度以降の予算・事業計画で明らかにしていく方針が示されたが、可能な限り早期に具体化するよう求める。