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AI戦略会議 AI制度研究会「中間とりまとめ案」に対する意見

2025年1月23日

一般社団法人日本新聞協会

 日本新聞協会は、AI戦略会議 AI制度研究会の「中間とりまとめ案」に対し、以下の通り意見を述べる。

生成AI時代に即した実効性のある法整備が急務

 AIのリスクに対し更なる制度検討の必要性が指摘されている点には賛同する。ただし、「規制を伴わない法令でも、法令に事業者の義務や責務が明記されることにより国内外の事業者に対し一定の実効性を確保することが可能」との記述は、現状に照らして疑念がある。新聞協会はAI事業者に対し、報道コンテンツを生成AIに利用する場合は許諾を得るよう繰り返し求めているが、改善がみられないままサービスは拡大の一途をたどっている。特に検索連動型の生成AIサービスは、情報源として報道コンテンツを無断で利用しているうえ、記事に類似した回答が表示されることが多く、著作権侵害に該当する可能性が高い。国内事業者の多くが文化庁「AIと著作権に関する考え方」等に沿って対応しているとみられる一方、これを順守せずにサービスを展開する国外事業者もいる。こうした事業者にソフトローで対応することは困難である。生成AI時代に即した新たな法整備が急務である。

自主的な取り組みや、ソフトローで対応しきれない現状を踏まえた対応を

 イノベーション促進とリスク対応の両立のため、「法令とソフトローを適切に組み合わせ、法令による規制は事業者の自主的な努力が期待できないものに限定すべき」との記述がある。知財計画2024は「法、技術、契約の各手段は、相互補完的に役割を果たす相関関係がある」と指摘する。しかし、著作権法をはじめとする法整備は不十分であり、権利者とAI事業者の契約は進展しておらず、三者の補完関係は機能していない。AI事業者による自主的な取り組みや、ガイドライン等のソフトローでは対応しきれない状況を打開するため、著作権法の改正を含め、生成AI時代に沿った法整備を打ち出すべきだ。特に国外事業者はガイドライン等を順守しない者も多く、国内事業者との間で競争条件の不均衡も起きかねない。放置されれば、国外事業者によるAI市場の寡占につながるばかりか、コンテンツ市場における日本の知的財産・コンテンツの国際競争力の低下にもつながりかねない。

学習データの提供者の権利も守られるべき

 AIサービスの開発・利用に関するライフサイクルにおいて、AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つの主体に加え「学習データを提供する者等にも留意する必要がある」と記載されている。現状、学習データの提供者の権利はないがしろにされていると言わざるを得ず、この記述に賛同する。このライフサイクルの中に学習データの権利者を位置づけ、十分に知的財産が保護されるよう実効性のある法制度を整備すべきだ。

 また、知財の保護においては、対価還元も重要だ。「AI時代の知的財産権検討会」による昨年5月の「中間とりまとめ」は、学習データにおける対価還元の必要性を強調している。AI開発者やAI提供者が「自ら進んで権利者と合意の上で対価還元策を講じることは可能であり、良質な生データや学習データに係るライセンス市場の形成と権利者への対価還元の実現が期待される」。これらの指摘を踏まえ、実効性のある措置を講じることが求められる。

EUや米司法省など国際的な動向を踏まえた制度整備を

 広島AIプロセス等の「国際的な規範の趣旨を踏まえた指針」を整備すべきとの記述がある。欧州連合(EU)では、DSM指令において学習段階でのコンテンツホルダーによるオプトアウトを条件付きで盛り込んでいるほか、米司法省もグーグルの検索サービス市場における支配解消のため、検索の回答に情報が使われることを、ウェブサイト側で拒否できる仕組みの導入を求めている。国際的な動向を踏まえ、著作権の保護を強化するとともに、AI事業者に対し学習データの開示義務を課すなどの対応を取るべきである。

AIサービスを提供するプラットフォーム事業者は、偽情報・誤情報などのリスクに主体的に対応すべき

 生成AIの急速な発展に伴い、健全な言論空間や情報流通に対する懸念が更に高まっている。メタ社は、外部の第三者機関に投稿の真偽を検証させる「ファクトチェック」を米国で終了すると発表した。AIサービスを提供するプラットフォーム事業者が自律的に対処する制度や仕組みを整えなければ、ネット上の偽情報・誤情報や誹謗中傷のさらなる氾濫につながる恐れがある。偽情報・誤情報などのリスクに適切に対応するためには、情報流通を担う責務をプラットフォーム事業者が自覚し、健全な言論空間の維持に向け主体的に取り組むべきだ。

以  上

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