世界AI原則(Global Principles on Artificial Intelligence・仮訳)
原文はこちら(米ニュース/メディア連合ウェブサイト)。
はじめに
AI開発者と規制当局は、責任ある持続可能な方法でAIが発展することを保証しながらイノベーションを後押しして新たなビジネスチャンスを創出するという、倫理的なAIの枠組みを確立するまたとない機会を得ている。これを達成するためには、AIシステムの学習のもととなるコンテンツやデータに対して、著作権で保護された著作物やその他対象物の適切な使用許諾を得ることを含めた合法的なアクセスが行われ、またシステムの学習に使用されたコンテンツや出典が明確に特定されることが不可欠である。本文書は、以下に署名する発行者団体が、人工知能システムおよびアプリケーションの開発、導入、および規制に適用されるべきだと考える原則を定めるものである。これらの原則は、知的財産、透明性、説明責任、品質と誠実性、公平性、安全性、設計、および持続可能な開発に関する問題を扱っている。
(訳注:発行者=ニュースや情報などコンテンツを提供するメディア企業)
AIシステム、特に生成AIの普及は、テクノロジーやクリエーティブ・コンテンツとの関わり方、利用の仕方に大きな変化を及ぼしている。AI技術は一般市民、コンテンツ制作者、企業、そして社会全体に多大な利益を与え得る一方で、クリエーティブ産業の持続可能性や、知識・ジャーナリズム・科学に対する人々の信頼、そして民主主義の健全性にリスクをもたらす。
以下に署名する私たち各団体は、AIが私たちの分野に与える機会を全面的に受け入れるとともに、AIシステムとアプリケーションの責任ある開発と導入を求める。私たちは、これらの新しいツールは、発行者の知的財産、価値あるブランド、信頼できる消費者との関係、そして投資を保護する、確立された原則と法律に従って開発されれば、革新的なブレークスルーを促進することを強く確信している。AIシステムによる私たちの知的財産の見境のない流用は、非倫理的で有害であり、私たちの保護された権利の侵害である。
私たちの組織は、ニュース、雑誌、書籍の発行者、学術団体や大学出版部などの学術出版業界を含む、世界中の何千ものクリエーティブなプロフェッショナルを代表している。私たちの会員は、私たちのコミュニティーに情報を提供し、楽しませ、参加させる質の高いコンテンツを作成するために、多大な時間と資源を投じている。以下の原則は、今日理解され使用されているように、AIシステムの学習と導入に向けた私たちのコンテンツの使用に適用され、信頼できるAIシステムの責任ある開発を促進しながら、そのようなコンテンツを革新し、作成し、普及させる継続的な能力を確保することを目的としている。
知的財産
1) AI システムの開発者、運用者、導入者は、権利者によるオリジナル・コンテンツへの投資を保護する知的財産権を尊重しなければならない。この権利には、適用されるすべての著作権と付随する権利、その他の法的保護に加え、コンテンツへのアクセスやその利用に対して権利者が課す契約上の制限や制約が含まれる。したがって、AIシステムの開発者、運用者、導入者、ならびにAIを規制する法律や政策の起草に携わる立法者、規制当局、その他の関係者は、クリエーターや権利者の生活を守るために、クリエーターや権利者が所有するコンテンツの価値を尊重しなければならない。
2) 発行者は、知的財産の使用について十分な報酬を交渉し、受け取る権利がある。AIシステムの開発者、運用者、導入者は、明示的な許諾なく、私たちに権利があるクリエーティブ・コンテンツをクローリングし、取り込み、使用すべきではない。AIシステムによる知的財産の学習、表示、合成のための使用は、通常、権利者のオンライン利用規約で明示的に禁止されており、既存のライセンス契約ではカバーされていない。開発者がある目的(例えば、検索のためのインデックス作成)のためにコンテンツのクローリングを認められているとしても、LLM(大規模言語モデル)に学習させるなど他の目的での知的財産の使用については、明示的な許諾を求めなければならない。これらの契約はまた、AIシステムがクリエーター、コンテンツ所有者、一般市民に引き起こす可能性のある、あるいはすでに引き起こしている損害についても考慮すべきである。
3) 著作権および付随する権利は、コンテンツ制作者および所有者を、コンテンツの無許諾使用から保護する。保護された著作物をAIシステムで使用することは、他の場合と同様に、著作権や付随する権利、規約上の許諾をめぐる関連法の順守の対象となる。AIシステムで使用するためのコンテンツへのアクセスが合法的であることを保証するためには、関係する権利者による適切なライセンスと許諾など、権利者がその権利を効果的に行使し、該当する場合には帰属と報酬を要求できることが不可欠である。
4) クリエーターと権利者のコンテンツをライセンスする既存の市場を認識すべきである。発行者の正当な知的財産権益を評価することは、AIのイノベーションを阻害するものではない。なぜなら、ライセンス供与を含め、支払いと引き換えに使用を認める枠組みが既に存在しているからである。私たちは、信頼できる高品質のAIシステムの学習を促進できる効率的なライセンス供与モデルを奨励する。
透明性
5) AIシステムは、クリエーター、権利者、利用者にきめ細かな透明性を提供すべきである。AIシステムの開発者に対して、発行者のコンテンツや関連するメタデータを、それらがアクセスされた法的根拠とともに詳細に記録し、コンテンツが学習用データセットに含まれている場合、発行者がその権利を行使するために必要な範囲でこの情報を利用できるようにすることを義務付ける強力な規制を設けることが不可欠である。正確な記録を保存する義務は、学習やテストが行われた際の司法管轄権に関係なく、コンテンツ使用の完全な流れを提供するために、AI開発の開始時点まで遡るべきである。詳細な記録を保存しなかった場合は、疑わしいデータが使用されたと推定されるべきである。非営利団体、研究機関、教育機関などの第三者が開発したデータセットやアプリケーションが、商用AIシステムの原動力として使用されている場合、発行者が権利を行使できるように、このことを明確に開示しなければならない。開発者が知識から知識を生成するプロセスの構成要素としてAIツールを利用する場合、元のコンテンツの発行者の条件に適切に従った明確な帰属表示をはじめとする適切かつ明確な説明責任と出所の仕組みを含めて、これらのツールの適用に関する透明性が確保されるべきである。第6項および第9項を制限することなく、またこれを条件として、AI開発者は、発行者と協力して、相互に受け入れ可能な帰属表示およびナビゲーションの基準および形式を開発すべきである。また、利用者は、システムおよび出力の品質と信頼性について判断するために、そのようなシステムがどのように動作するかについて、理解しやすい情報を提供されるべきである。
説明責任
6) AIシステムの提供者と導入者は、システムのアウトプットについて説明責任を確保するため協力すべきである。情報コンテンツや科学コンテンツの品質と正確性について、AIシステムは競争と社会的信頼をめぐるリスクをもたらす。このリスクが、AIシステムが発行者に誤った情報を不適切に帰属させるコンテンツを生成することによって、さらに悪化する可能性がある。情報コンテンツや科学コンテンツを提供するAIシステムの導入者は、説明責任を果たすために必要かつ関連性のあるすべての情報を提供すべきであり、有限責任制度や免責条項を含め、そのアウトプットに対する責任追及から保護されるべきではない。
品質と誠実性
7) 品質と誠実性を確保することは、AIツールやサービスのアプリケーションにおいて信頼を確立するための基本である。これらの価値観は、アルゴリズムの設計や構築から、AIツールやサービスの学習に使用されるインプット、AIの実際のアプリケーションに使用されるインプットに至るまで、AIのライフサイクルの中心にあるべきである。「rubbish-in-rubbish-out」というコンピューティングの基本原則は、システムの動作は学習に使用されるインプットと同程度にしか優れたもの、あるいは偏りのないものになり得ないということである。AIの開発者と導入者は、発行者がサプライチェーンのかけがえのない一部であり、学習・表示・合成に高い品質で活用し得るコンテンツを生み出していることを認識すべきである。上流で高品質なコンテンツを使用することは、下流の利用者への高品質なアウトプットに貢献する。
公正性
8) AIシステムは、不公正な市場や競争の結果を生じさせるべきではなく、また、そのような結果を生じさせるおそれがあってはならない。AIシステムは、競争法と競争原則を含む法律を順守する方法で設計、学習、導入、使用されるべきである。また、開発者や導入者は、AIモデルが反競争的な目的で使用されないことを保証することが求められるべきである。非常に大規模なオンライン・プラットフォームによるAIシステムの導入は、市場支配力を強化したり、支配の乱用を促進したり、市場からライバルを排除したりするために使用されてはならない。プラットフォームは、発行者がコンテンツの利用方法を選択する権利を行使する場合、差別をしないという概念を順守しなければならない。
安全性
9) AIシステムは信頼できるものでなければならない。AIシステムとモデルは、発行者やメディア企業に適用されるのと同じ専門的基準に従って作成された、信頼できる情報を奨励するように設計されるべきである。AIの開発者と導入者は、AIが生成したコンテンツの事実関係が正しく、内容に誤りもなく、完全であることを保証するために最善の努力を行わなければならない。重要なのは、AIシステムは、オリジナルの著作物が誤って表示されないことを保証しなければならないことである。これは、オリジナル著作物の価値と誠実性を守り、社会的信用を維持するために必要なことである。
10) AIシステムは安全でなければならず、プライバシーリスクに対処すべきである。特にAIシステムとモデルは、それらと対話する利用者のプライバシーを尊重するように設計されるべきである。AIシステムの設計、学習、利用における個人データの収集と使用は、わかりやすい方法で利用者に完全に開示された合法的なものでなければならない。システムは偏見を強めたり、差別を助長したりしてはならない。
設計
11) これらの原則は、汎用AIシステム、基盤モデル、生成AIシステムなど、すべてのAIシステムに設計上組み込まれるべきである。これらの原則は、設計の重要な要素であるべきであり、後付けや都合の良いとき、第三者からクレームが来たときに対処する些細な懸念事項として考慮されるべきではない。
持続可能な開発
12) AIシステムの多分野にまたがる性質は、世界的な関心事を扱う上では理想的だと位置づけられる。AIシステムは、将来世代を含む全人類に利益をもたらすと期待されているが、それは人間の価値観に合致し、グローバルな法律に従って運用される範囲に限られる。質の高い入力データの供給者に対する長期的な資金提供やその他のインセンティブは、システムを社会の目的に沿わせ、最も重要で、最新かつ実用的な知識を抽出するのに役立つ。