「知的財産推進計画2025」の策定に向けた意見
2024年12月18日
一般社団法人日本新聞協会
日本新聞協会は、「知的財産推進計画 2025の策定に向けた意見募集」に対し、以下の通り意見を述べる。
「知的財産推進計画2025」に向けて
知的財産保護のため、法改正を打ち出すべき
第1回構想委員会(10月7日開催)では、「2030から40年を見据え、AIの利活用について議論する」との説明があった。しかし、「知的財産推進計画 2024」が課題とした「著作権を始めとする知的財産権と生成AIをめぐる懸念・リスク」は払拭されていない。知財計画2024は、「法・技術・契約の各手段を適切に組み合わせながら機動的に取り組むこと」が必要であるとの方向性を示したものの、現状では各手段が機能しているとは言い難い。第1回構想委で福井健策委員が指摘した通り、特に法と契約をめぐる課題がクリアになっていない。そもそも現行の法体系が生成AI時代に沿ったものとは言い難く、著作権法の改正を含めた新たな法整備を打ち出すべきだ。
知的財産の保護は、偽・誤情報対策にも有益
偽・誤情報の流通・拡散が大きな問題となっている。無秩序なデータ収集・学習利用による生成AIの構築が、偽・誤情報の発信を容易にしていることは否めない。新聞協会が今年9月に実施した調査では、生成AIサービス利用者の「約6割が誤った回答が表示された経験を持つ」ことがわかった。知的財産の保護強化を通じ、権利者の同意を得た質の高いデータをAI開発に用いるよう方向づけることが偽・誤情報対策にも有益だと考える。
「知的財産推進計画 2024」で積み残した課題
「法・技術・契約の各手段の相互補完性」が機能していない
生成 AI と知的財産をめぐるリスクへの対応策として、知財計画2024は「法、技術、契約の各手段は、相互補完的に役割を果たす相関関係がある」と指摘する。しかし、著作権法をはじめとする法整備は不十分であり、権利者とAI事業者の契約は進展しておらず、現状では三者の補完関係は機能していない。
こうした問題は、生成AIの事前学習だけにとどまらない。例えば、主に海外事業者が提供する検索連動型の生成AIサービス(RAG)は、著作権法の「軽微利用」規定(第47 条の5)の条件を満たしておらず、著作権侵害に該当する可能性がある事例が多い。RAGサービスは、新聞記事を含む「寄せ集め」を提供するもので、「検索」とは全く別物である。RAGサービスの急速な広がりはゼロクリックサーチを招き、コンテンツ発信者の収益機会を不当に奪っている。新聞協会が今年9月に実施した生成AIのユーザーを対象にした調査では、生成AIの回答の参照元(出典)を必ず見る人は1割しかいなかった。大手検索サービス事業者は、市場で支配的な地位を利用しサービスを強行しており、学習用と検索用のクローラーを分けていないため、権利者は技術的措置を講じることもままならず、弊害は大きい。
知的財産の保護においては、対価還元も重要だ。政府が設置した「AI時代の知的財産権検討会」は今年5月に「中間とりまとめ」を公表し、学習データにおける対価還元の必要性を強調している。「AI開発者やAI提供者が、自ら進んで権利者と合意の上で対価還元策を講じることは可能であり、良質な生データや学習データに係るライセンス市場の形成と権利者への対価還元の実現が期待される」(48ページ)。こうした指摘を踏まえ、実効性のある措置を講じることが求められる。
知的財産を十分に保護せず一面的に生成AIの発展を促せば、コンテンツ再生産の経済サイクルは機能しなくなる。報道機関は、取材体制を維持できず、縮小を加速させる恐れが強い。そうなれば、コストのかかる調査報道なども困難になる恐れがある。AIが報道機関に代わり取材・報道を担うことはない。ニュースの重要な担い手である新聞・通信社の報道機関としての機能が低下すれば、国民の「知る権利」を阻害しかねない。知財計画2025の策定に向け、知的財産の保護を重要な論点と位置づけて検討を進めるべきだ。
知財保護をめぐる法整備は、競争力強化の観点からも喫緊の課題
データの学習に関し、著作権法第30条の4について、国内事業者の多くが文化庁「AIと著作権に関する考え方」などに沿った対応をしているとみられる一方、権利者の許可を得ずにクローリングし事業を展開する海外事業者もいる。競争条件の不均衡が放置されれば、海外事業者によるAI市場の寡占につながるだけでなく、AI生成物を含めたコンテンツ市場における日本の知的財産・コンテンツの国際競争力の低下にもつながりかねない。法の整備を進め、不均衡を是正することは喫緊の課題である。
著作権法や競争法以外による法規制も排除すべきではない
権利者がAI学習をコントロールできる技術的措置(robots.txtによるクローリング制限)は、法的に明確な効力がない。クローラー情報を公開していない事業者や、robots.txtを無視して許可を得ずにクローリングし事業を展開する海外事業者もいると報道されている。
欧州連合(EU)では、DSM指令において学習段階でのコンテンツホルダーによるオプトアウトを条件付きで盛り込んでいるほか、米司法省も先ごろ、グーグルの検索サービス市場における支配解消のため、検索の回答に情報が使われることを、ウェブサイト側で拒否できる仕組みの導入を求めている。
知財計画2025には、コンテンツの保護に関する内容を「知的財産の保護」の項目に盛り込むとともに、国際的な流れも踏まえ、現行法における課題や生成AI時代に対応した法整備の必要性にも触れるよう求める。著作権法や競争法以外による法規制も排除すべきではなく、既存の関係法令の狭間に落ちてしまいがちな問題を複合的に検討するべきだ。
以 上