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個人情報保護検討部会の「中間報告」に対する意見
日本新聞協会
個人情報保護検討部会が昨年11月19日、高度情報通信社会推進本部に提示した「我が国における個人情報保護システムの在り方について」(中間報告)に対し、新聞協会の意見を述べたい。
(1)現行個人情報保護法の速やかな改正が必要である
新聞・通信各社(以下、新聞界)は昨年10月6日、検討部会のヒアリングで「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」(以下、現行法)の抜本的改正が急務であると指摘した。その理由として挙げたのは、現行法が規制対象を行政機関に限定し、裁判所、国会、特殊法人を含めていないこと、また学校の成績や医療記録の例のように本人からの開示請求であっても適用除外として不開示とされる項目が多すぎることなどである。
不開示情報の範囲については、2001年施行の情報公開法においても、個人が識別され、あるいは識別されうる情報は原則的に開示されないこととなったが、情報公開法要綱案の作成に当った行政改革委員会は、本人情報については個人情報保護法で開示されるべきことを前提とした措置としている。
従って、現行法は遅くとも情報公開法施行までには速やかに改正されなければならず、そうでなければ、本人情報が情報公開法でも、また個人情報保護法でも開示されないという不都合な事態が生じることになる。
国は憲法13条に基づき個人の尊厳を保障する義務がある。また国民は公的機関が自分の情報をどのような形で持っているかを知る開示請求の権利を持っている。しかし、現行法はその要請に十分こたえてはいない。現行法には個人情報の管理や保護などについてOECD8原則(「中間報告」では後述の5原則)を守るべき法規範として明確に定めるべきである。こうした考えに基づいて必要な改正を急ぐべきことをあらためて強調しておきたい。
(2)「基本法」には個人情報保護の具体的原則を盛り込むべきではない
「中間報告」が指摘するように、ネットワーク社会が世界的規模で急速に進展している状況を考慮すれば、民間部門においても個人情報保護制度が早急に確立されなければならない。しかし、検討部会が提言する具体的な保護原則の法定化については以下の理由で同意できない。
「中間報告」は、全分野を包括する基本法を制定すべきとした上で、個別分野については個別法および自主規制で保護を図ることを提言した。併せて「個人情報保有者の責務」「個人情報の理由等」「個人情報の管理等」「本人情報の開示等」「管理責任及び苦情処理」の5項目を個人情報保護のために確立すべき原則としてこれを基本法に盛り込むべき内容の一つとした。
基本法を制定して保護の空白分野を生ぜしめないよう図り、その下に個別法分野と自主規制分野を併存させるという保護体系構想そのものは、上記ヒアリングで陳述した新聞界の意見と概ね合致するものである。21世紀に一層進展する情報化社会にあって、柔軟な個人情報保護システムの確立は民主主義の維持・発展のために欠かせないからである。
そのような個人情報保護体系の中では、報道・出版の自由に関わる分野は、法規制ではなく自主規制をもって対応すべきであることもヒアリングで述べた。言うまでもなく表現・報道の自由は個人情報の保護と同様、民主主義にとっては不可欠であり、法による規制はその自由を阻害することになるからである。
そう考えると、個別法規制分野も自主規制分野もともに包括する基本法で上記5原則を規定するという検討部会の提言は、それが報道・出版活動にたいする実質的法規制につながるという意味で、新聞界として大きな危惧を抱かざるを得ない。基本法に5原則を盛り込めば、その効力は当然ながら法規制分野のみならず自主規制の分野にも及ぶこととなり、事実を伝達するために取材を通して多くの個人情報を日常的に収集する報道機関の活動に看過しがたい重大な支障が生じる結果となることは避けられない。
ヒアリングで新聞界は「個人情報保護法は情報の自由な流通を確保し、表現の自由を尊重するとともに、個人の尊厳を守るとの理念のもとに」制定されるべきことを強調した。現代社会では個人の尊厳を守ることも情報の自由な流通を確保することも、ともに大事な営為であって、どちらか一方に偏することがあってはならず、個人情報の保護と利用の両立こそが大切であるという趣旨であった。
取材・報道活動に事実上の規制効果を持つ5原則を基本法に盛り込むことはその趣旨に反するものである。基本法では具体的原則ではなく個人情報保護の理念をうたい、そのうえで個人情報を扱うすべての分野で保護措置を講ずべきこと、措置内容は法規制分野にあっては個別分野の特性に応じて決めること、自主規制分野は自主的な決定にゆだねること、などを規定するのが望ましいと考える。
あえて付言すれば、法文の構成上、基本法に保護原則を規定しなければならない場合は、収集した個人情報の漏洩を防止し、適正に管理する原則(検討部会が5原則策定の原典としたOECD8原則の「安全原則」)に限定すべきであると考える。
(3)報道・出版の分野については自主的救済制度の拡充にゆだねるべきである
「中間報告」は、個人情報の不適切な取り扱いによる紛争の解決手段として、法的な処理とは別の救済制度の確立を提言した。事業者、民間第三者機関等、地方公共団体、国、統一的な第三者窓口がそれぞれ役割を分担し、全体として効果的に機能しうるような「複層的な救済システム」の構想である。
この構想の対象分野が個別法分野なのか自主規制の分野なのか、あるいは双方を含む全分野であるのかを「中間報告」は明記していないが、仮に自主規制分野までがその対象に含まれるとすれば、個人情報保護と情報の自由な流通の両立を目指す立法の趣旨に反しかねない。とりわけ、報道・出版の分野に適用されるとすれば、個人情報の管理に関わる紛争のみならず、取材・報道活動によるプライバシー侵害や名誉棄損などの紛争について司法システムとは全く別に国の各行政庁または地方公共団体が「裁定」することも想定される。
行政機関の表現・報道の自由への介入につながりかねないこのような重大な事項が、内容があいまいなまま、「適用除外」などの条件も付さず、「中間報告」に記載されたことに強い懸念を抱かざるを得ない。
各新聞・通信社は現在、人権侵害防止、救済のための自主的な取り組みを強化しており、さらにプレスオンブズマンや報道評議会などを設置することの当否についても真摯に検討を続けているところである。「中間報告」が提言する救済制度がどのような形態のものになるにせよ、少なくとも報道・出版の分野については「複層的救済システム」構想の対象から外し、自主的な救済制度の拡充にゆだねられるべきである。
以上