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「個人情報保護基本法制に関する大綱案(素案)」に対する緊急声明
日本新聞協会
「個人情報保護基本法制に関する大綱案(素案)」がまとめられ、同時に政府の個人情報保護法制化専門委員会で報道の分野等との調整に関する検討が始められた。同委員会において、表現の自由、報道の自由について委員から問題提起され、議論が続けられていることを歓迎し、委員諸氏の真剣な討議に敬意を表したい。
今般の「素案」では、「1.目的」の条文中に「個人情報の有用性に配慮する」旨の「中間整理」にはなかった文言が加えられた。また、法制化専門委員会の議論の中では、各委員から「報道の自由を制限してはならない」という趣旨の意見が出されており、委員会のこのところの取り組みは、報道の自由への配慮を念頭に進められていると理解できる。
しかし、委員会の議論では、同「素案」のうち、「4.個人情報取扱事業者の義務等」以降の章に関しては報道の分野を適用除外とするものの、「3.基本原則」については一定の配慮を示しつつも報道分野に適用すべきとの意見が目下、大勢を占めているようである。
日本新聞協会加盟各社は、このような方向で大綱作りが進められることに対し大きな危ぐを抱いており、あらためて見解を表明する。
当協会はこれまで、報道を含むあらゆる分野を適用対象とするのであれば基本法は個人情報保護の理念をうたうのにとどめるのが望ましく、基本原則を盛り込むのであれば報道目的の個人情報は法の対象から全面的に除外するよう主張してきた。我々は、たとえ一部であっても基本原則が報道分野に適用されることには強く反対する。
基本原則の適用は、さまざまな問題を生ずる。委員会では、法的な拘束力が実際に発動されることはない、との意見も出されたが、基本原則は行動の方向性を規定するものであり、取材する立場に心理的な圧力がかかるだけでなく、取材される側には、「基本法に違反する形で情報を提供することはできない」という委縮効果が全般的に及ぶ。取材活動は今より困難になり、報道の自由が実質的に制限されることは間違いない。個人情報保護法制化を求めたEU指令が、報道目的に関して、基本的原則を含めて「適用除外を定めなければならない」と各国に義務づけているのは、まさにこのような形で報道を制限することに対する警戒心を強く表したものにほかならない。
今回の素案の基本原則を個別に見ても、「(1)利用目的による制限」「(5)透明性の確保」だけでなく、報道の分野への適用を前提に議論されている「(2)適正な方法による取得」も報道の根幹である取材源秘匿との衝突という問題が生ずる。この原則は「個人情報は、適正かつ適法な方法によって取得されること」となっているが、報道目的の個人情報について「適正かつ適法な方法による取得」であることを証明するためには、取材経過を逐一明らかにするよう迫られることが予想される。その結果、取材源秘匿の原則は、重大な危機に瀕(ひん)することになりかねない。
なお、報道目的の個人情報に記事データベースなどは当然含まれると考える。記事データベースは、過去の新聞記事を検索しやすい形で保存・蓄積し、利用者に提供するという公共的な性格を持ち、利用者も、新聞報道の記録として参照している。従って、記事データベースは報道結果の蓄積であり、新聞記事やその縮刷版と同様、報道そのものである。
新聞、通信各社は過去、個人情報をより高い水準で適正に取り扱うよう、自主的な改善努力を積み重ねてきた。本年6月には新聞倫理綱領を54年ぶりに改定し、人権の尊重について「新聞は人間の尊厳に最高の敬意を払い、個人の名誉を重んじプライバシーに配慮する」と表明した。苦情処理に対しては、各社それぞれ専門部署を充実させるなど体制整備を絶えず図っているほか、各社が連携した検討会などで研究活動を続けている。
法制化専門委員会においては、以上の事情を踏まえ、報道目的の個人情報を「3.基本原則」を含めて基本法の対象から全面的に除外されるよう強く要望する。
以上