1. トップページ
  2. 声明・見解
  3. 「個人情報保護法」「特定秘密保護法」など取材に関わる法制
  4. 「個人情報保護基本法制に関する大綱」に対する意見書

「個人情報保護基本法制に関する大綱」に対する意見書

日本新聞協会

 政府の個人情報保護法制化専門委員会により、「個人情報保護基本法制に関する大綱」がまとめられた。

 今回の大綱では、個人情報の取り扱いに関する5つの基本原則すべてにかかる形で、「なお(略)基本原則は、公益上必要な活動や正当な事業活動等を制限するものではない。(略)この趣旨は、報道分野における取材活動に伴う個人情報の取扱い等に関しても同様である」と付け加えられ、主務大臣の改善命令や罰則の対象となる義務規定については、報道分野を適用除外とすることが明記された。

 報道の自由に対し、一定の配慮が見られたと言うことができ、大綱をまとめられた法制化専門委員会委員諸氏のご努力を多としたい。

 しかしながら、「なお書き」を付けつつ結局、基本原則を報道分野にも適用した点は、日本新聞協会に加盟する新聞・通信各社が述べてきた主張と隔たりがある。

 我々が繰り返し指摘したように、基本原則が適用されると、取材を受ける側が委縮し、あるいは基本原則を口実に取材を拒否するケースが増加し、読者が必要とする情報を十分に報道できなくなることも予想される。「適正な方法による取得」の原則が情報源の開示を求める法的根拠として利用され、報道の根幹である取材源の秘匿との衝突が起きたり、「透明性の確保」の原則を盾に取材活動への不当な干渉が行われる恐れがある。「なお書き」のような条件付きとは言え、基本原則が適用されると、報道分野にさまざまな問題や紛争がもたらされる可能性が高い。

 そもそも、「表現の自由」は、民主主義の根幹を支えるものとして憲法で保障された権利であり、その中でも「報道の自由」は「国民の知る権利」にこたえる重要な要素である。知る権利を守るためには、取材、報道するメディア側だけでなく、これを支える国民のメディアへのかかわりについても考慮に入れて判断すべきである。

 しかし、法制化専門委員会の園部逸夫委員長も認めているように、憲法上の自由権と個人情報とのあるべき関係について、十分な検討が行われたわけではない。「なお書き」が「正当な事業活動等」と報道分野を同列に論じていることからも分かるように、大綱は報道の自由に対する認識が不十分だと言わざるをえない。

 さらに、基本原則は「努力規定」と一応位置づけられたものの、法的効力はあるのか、あるとすればどの程度のものなのか、などあいまいな点も依然、残されている。

 園部委員長は、大綱提出に当たって発表した談話の中で「取材活動に関しましても(略)法律上保護されるべきことは言うまでもありません」と述べ、さらに大綱提出後の記者会見で、「なお書きの部分の精神を法の条文に明記してほしいというのが専門委員会の一致した意見だ」と語った。

 大綱では不十分な表現にとどまったが、今後の立法化に当たっては、この精神を明確に条文として具体化し、報道目的の個人情報が基本原則を含め基本法の適用対象から全面的に除外されるよう重ねて要請する。

 もとより、我々は報道分野が「個人情報の保護」から自由であるべきだと主張しているわけではない。これまでも日本新聞協会として新聞倫理綱領を見直し、各社ごとの自主的な取り組みを進めるなど個人情報の保護に向けての努力を重ねてきた。我々は今後もこうした努力を続けるが、これはあくまでも自主的な措置として行われるべきものであり、法律により報道に規制を加えようとする動きには今後とも強く反対していくものである。

 また、行政など公的機関が保有する個人情報については、民間部門と同列に扱うのではなく、現行の法制度を早期に抜本的に改正し、情報主体である本人への開示や本人の申し出に基づく訂正等が広く適正、迅速に実現されるよう、政府、与野党に求めたい。

以上

ページの先頭へ