犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書
2005年10月21日
内閣府
犯罪被害者等施策推進会議
犯罪被害者等基本計画検討会
座長 宮澤 浩一 殿
社団法人日本新聞協会
警察による被害者の実名発表、匿名発表について、「個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」としている、Ⅱの第2の2「安全の確保」中の(2)のエ項に、日本新聞協会は反対し、削除を求める。被害者は実名で発表されなければならない、とわれわれは考えるからである。
実名のない被害者は、その存在さえ容易には確認できず、本人や周辺からの取材もできない。確認できない事柄を無責任に報道することはできない。われわれが実名発表を求める理由はここに尽きる。事件や事故を正確に、客観的に取材、検証し、報道するために、実名は欠かせないのである。
発表された被害者の実名をそのまま報道するかどうか、これはまたまったく別の問題である。被害者の安全にかかわる場合はもちろん、プライバシー侵害や何らかの二次被害のおそれがある場合は、当然、匿名で報道する。被害者から要望があれば被害者と誠実に話し合い、警察が被害者の声を仲介する場合は警察と真摯(しんし)に協議する。
被害者の実名は、この社会で現に起きた事実の核をなす情報である。それを国民に知らせるか知らせないか、警察に最終判断を任せていいのだろうか。われわれは、警察に限らず行政当局が、国民にかかわる情報を、随意にコントロールする社会に不安を覚える。
事件・事故の報道は、広く社会全体でその悲しみや怒りを共有し、社会が一体となって背景にある原因を考え、再発防止、根絶に向け取り組むために必要なものだと信じる。その使命を果たすために、報道に起因する諸問題については、報道機関が自主的、自律的に判断し、結果の責任もまた正面から引き受ける。われわれは、これまでもそうあろうと努めてきたし、今後もさらに努力を重ねたいと考えている。
犯罪被害者等基本計画は、被害者に対する主として行政の対応を網羅したものと、われわれは理解している。しかし、事件・事故の発表という行為は、一方にマスコミという当事者があり、行政だけでは完結しない。さらに、被害者対策と国民の知る権利という異なる公益にまたがる問題でもある。この項目が行政の犯罪被害者対策という文脈で一方的に取り上げられていることに、強い違和感がある。
実名・匿名発表については、これまでもわれわれは警察と何年にもわたり議論を重ねており、今後も協議を続けたいと考えている。この際、基本計画からはこの項目を削除し、そうした場に論議を委ねるよう求める。
以上