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NHKインターネット業務の「必須業務化」に対する意見

2023年7月24日

総務省「公共放送ワーキンググループ」御中

一般社団法人日本新聞協会
メディア開発委員会

 当委員会は、総務省「公共放送ワーキンググループ(WG)」で議論されているNHKのインターネット業務の必須業務化に対して、あらためて反対する。現状、ネット業務は放送の「補完」であるにもかかわらず、なし崩し的な業務拡大が行われてきた。必須業務化によって際限なく拡大する恐れがあり、メディアの多元性や言論の多様性の観点から懸念を繰り返し指摘してきたが、こうした懸念は依然拭えない。全国の地方新聞社からも「現状の業務でもすでに脅威であり、予算規模を考えると太刀打ちできない。これ以上拡大すれば事業が立ち行かず、地方から言論の多様性が失われかねない」といった危惧の声が寄せられている。 NHKが今後のネット業務に対する具体的な希望を示したのはわずか2か月前のことであり、前回の会合で補足の説明もあったが、サービスの具体像や料金体系など依然不明瞭な点は多い。業務範囲だけでなく、受信料制度との関係、競争ルール、審査・チェック体制、NHK全体のガバナンス体制などの重要な論点についての議論が尽くされていない。これらの論点はNHKの在り方に関してより根源的なテーマであり、議論の方向性によって業務範囲に関する考え方が変わる可能性がある。こうした重要な論点について十分に議論せず、必須業務化の業務範囲だけを取り出して拙速に議論を進めることには賛同できない。また、公正な競争を実現するために有効な枠組みを見出さないまま先に必須業務化の方向を打ち出すのは、無責任な姿勢と言わざるを得ない。この夏に拙速に方針をとりまとめることなく、議論を深めてほしい。

 6月30日のWG第10回会合では、当委員会が5月19日に示した質問への「回答」が示された。しかし、過去の意見の紹介にとどまっており、質問に対する正面からの回答とは言えない。不十分な点が多く疑念や懸念が払拭されていないため、さらに議論を重ね回答を求める。WGでの議論が尽くされないと回答できないという説明だったが、議論の大前提である本来業務化の目的や理由について明確な考えが示されなかった点は疑問だ。当初示していた「情報空間の健全性確保」についても、構成員から「弊害を直接是正する効果は限定的」などの指摘もあった。必須業務化について議論しているにもかかわらず、なぜそれが必要なのかという根幹の部分が揺らいでいるのではないか。
業務として認められていない衛星放送のネット配信経費を予算に盛り込んでいた問題で明らかになったように、ガバナンスは重要な論点だ。しかし、具体的なガバナンス強化策について方向性を示さず、取りまとめを優先することには危惧を覚える。6月2日に公開された5月16日のNHK経営委員会の議事録では「執行の定義」「監督のあり方」などガバナンスの根幹にかかわる重要な論点について経営委と執行部の認識がまったく異なり、再発防止策の取りまとめについても双方が押し付け合っているようなやりとりが露呈した。これまでNHKが「三位一体改革は進んでいる」と言ってきたことが根底から覆され、ガバナンス不全に陥っていた実態が明らかになった。こうした問題を改善するためには、NHKの経営委と執行部を含めたNHK全体のガバナンス改善策を構築することが不可欠であるにもかかわらず、この問題の再発防止策では執行部が外部による専門委員会を設置した形になっている。執行部を監督する立場である経営委員会のガバナンス改革も不可欠であり、そうした全体の改革が進まないうちに、ネット配信の必須業務化を前提とする議論を拙速に進めることには到底賛同できない。

 第10回会合ではNHKからこれまでの説明の補足があったが、とりわけ必須業務の「基本」に「報道サイト」を位置付けることは不適切だと考える。「『放送』と同一の情報内容」と説明しているが、定義があいまいだ。理解増進情報と同様、その範囲が際限なく拡大することになりかねない。現状の「NHK NEWS WEB」は、放送内容を再構成するなどして、コンテンツの内容が放送番組と必ずしも同一とは言えない。仮に同一の情報内容であっても、さまざまな機能を加え提供されている。コンテンツが放送と同一の情報内容であれば、無制限でネット展開できるとの考え方は疑問だ。また、「様々なデバイス・認証等なしで閲覧可能」と明記しているが、いわゆる「フリーライド」の問題を解消しないまま、ニュースを無料で提供し続けるという趣旨だとしか理解できず、当委員会がこれまで示し続けてきた懸念に全く応えていない。必須業務化によって、有料になるのか無料になるのか、料金体系はどうなるのか、といったユーザーにとって極めて重要な点も明確に示されていない。 また、理解増進情報を「再整理」するとし、その方向性について「放送への"誘引"効果を高めるようなサービスについては、今の形のまま残ることはない」「"純化"されていく」などと説明している。しかし、理解増進情報の問題は番組への誘引を高めるようなサービスではなく、オリジナルコンテンツを展開するなどなし崩し的にサービスが拡大してきたことだ。WGは既存の理解増進情報がどう整理されるのか詳細な説明をNHKに求めるとともに、これまでの業務展開が市場に与えてきた影響について検討すべきだ。

 前回会合では、構成員から「国民やユーザー視点が重要だ」との指摘も寄せられた。極めて重要な指摘で、新聞・通信社は国民・視聴者やユーザーの支持を得られるよう、さまざまなメディアと競争しながら報道・事業活動に取り組んでいる。しかし、NHKと新聞・通信社では公正な競争は極めて困難であり、メディアの多元性や言論の多様性が損なわれかねない。長期的に見れば多様な情報を享受できなくなるという意味で、国民や消費者の真の利益に反する結果になるのではないか。これまでの会合で、「国家補助」事業の拡張は民間企業との競争を歪めかねない、との指摘もあり、多くの構成員から事前ルールの必要性を指摘する声があった。一度棄損されたメディアの多元性や言論空間が元の姿を取り戻すのは難しいということが構成員の間でも理解されているものと考える。だからこそ、前回会合で一部の構成員から「まずは踏み出せばよい」といった意見が出たことは極めて残念だ。引き続き、メディアの多元性や言論の多様性に配慮した検討を求めたい。

以上

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