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2013年 6月25日
これまでの生活に疑問を
中日「犠牲の灯(あか)り」
発生から2年が過ぎても、東京電力福島第一原発事故の収束はおぼつかない。私たちは豊かさを求め原発を制御するつもりで、逆に支配されているのではないか。原発の周囲で生きる人々を通して、原発のこれからを問い掛ける。
連載は1月に始まった。事故から経過した時間が、原発への関心や反原発運動の熱を冷ましていく。読者が飽きないよう読ませ方には気を遣う。第1部は、地元で仕事を見つけられない沖縄の人々が福島で被ばく労働に従事する姿を描く。戦後日本の平和や豊かさが、両地域の犠牲の上に成り立っていることを訴えた。2部では福島県飯舘村の女性に焦点を当て、母として、妻として苦悩する姿を追った。東京と福島をつなぐ国道6号線沿いを舞台に、ロードムービー風に仕立てた3部を経て、4部は原発誘致で潤う「原発銀座」に暮らす人々に迫る。
今月末に始まる5部は、電力の大消費地の都会が舞台だ。反原発デモの問題点や可能性を、参加者の人生を通して問い掛ける。
徹底して実名にこだわる。取材する側にもされる側にも、言葉に緊張感が出るからだ。匿名の気軽さは、強い言葉につながってしまう。
シリーズの合間には読者からの反響を実名で紹介している。原発に疑問を投げ掛ける連載だが、推進派の意見も取り上げる。デスクの寺本政司社会部次長は「反響も一つのエピソードだ。より多くの人に福島について考えてもらうきっかけになれば」と話す。
「読者に居心地の悪さを感じてもらいたい」とも。これまで通りの生活に疑問を持つことは、福島に心を寄せることだとの思いだ。デスクのほか、社会部の酒井和人、杉藤貴浩両記者が中心となる。取材班はシリーズごとに入れ替わり、これまで総局や通信局の若手も参加している。(さ)