2014年 8月26日
文化継承のために

埼玉「埼玉シルク物語 県内の絹産業遺産」 

 今年6月、「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産に登録された。絹産業を独自に発展させ、日本を近代工業国に導いたとして高く評価された。登録された遺産群は群馬県にあるが、隣りの埼玉県も養蚕業は盛んで、絹産業、さらには近代日本の発展を支えてきた。絹産業を取り巻く現状は厳しいが、先人の技術を継承する人たちもいる。「繭の国」の今を、6月から7月にかけ5回の連載で伝えた。

 絹産業の中心となったのは秩父市や熊谷市など県西部。しかし、1968年に繭生産量1万3200トン、養蚕農家3万9700戸と全国トップクラスを誇ったかつての面影はない。生産量は12トン(2013年)、養蚕農家の戸数は49戸(11年)と大きく減った。地元紙・埼玉新聞でも、絹産業が盛んだった地域だったことを知らない記者がいたという。さらに担い手の高齢化も重なる。今、書かなければという危機感が連載の出発点だった。米山士郎報道部副部長は「埼玉は養蚕業と共に発展してきたことを、広く伝えなければならないという意識があった」という。

 取材を通じて語られたのは、100年以上続く絹産業という文化を継承しなければいけないということだ。「文化をここで終わらせてはいけない、という思いは若い世代にも共通だった」と中島和哉経済部記者は話す。

 和服の需要低下、安価な外国製品との競争、後継者不足―存続待ったなしの状況で、希望の光も紹介した。蚕品種「いろどり」は、県の研究施設で開発された。笹(ささ)色の繭を作るこの蚕は織物業界から高い評価を受け、繭糸(けんし)に含まれる美白成分も注目される。

 世界遺産登録を機に、県内の関連施設も見学者数が増加するなど注目されている。連載についても「5回で終わってしまうのか」と読者から終了を惜しむ声が寄せられたという。(新)

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