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2014年 9月9日
地方にこそ未来がある
徳島「徳島発 幸せここに」
取材の発端は悲観的な将来予測だった。30年間で人口21万人減―。経済成長に頼ったままの社会では次代は開けないという記者が抱いた危機感は、徳島の将来に明るい兆しを探る長期連載に結び付いた。連載を統括する岡本光雄編集局次長兼編集委員室長も、そうした思いを抱いた1人だ。「徳島発の地域活性化策が数多く芽生えていることに気付いた。地方にこそ未来がある」と話す。
緑豊かな里山が広がる徳島県北東部・神山町の原動力は、積極的な移住の誘致だ。NPOが世話役となって創作活動に適した環境を芸術家らに提供する「神山アーティスト・イン・レジデンス」や、高速通信網を利用したIT企業のサテライトオフィスの開設が進む現状を伝えた。
U、Iターンで徳島に移住した若者の姿も追った。共通するのは地域への情熱だ。約10年暮らした大阪から帰郷した女性は、旅館のおかみとして再スタート。お遍路さんに家族のような温かさを提供しようと奮闘する。
商店街ぐるみで人を呼び込む取り組みも広がる。各小売店が実施する「まちゼミ」は知恵と技をゼミ形式で伝授し、来店のきっかけ作りを狙う。鶏料理居酒屋のつくね料理講座、靴店による靴の履き方・歩き方講座など、その店ならではのゼミを通じて店主の人柄を知ることができると好評だ。万年筆の手入れや金封の表書き代書などサービスを提供する「100円商店街」は、にぎわい創出や普段縁のない新規客の呼び込みが期待できると一致団結して取り組む。
岡本氏ら編集委員3人が中心になり連載を担当する。「取材は時間がある限り、歩く、聞く、見る、に全力投球」という。物質的な豊かさではない、魅力ある風土や人付き合いの温かみといった"値札のない世界"を描くことで、悲観的な将来予測を覆したいとの思いが、連載タイトルに込められている。(夏)