2016年 6月14日
新たなファン開拓する方策は

静岡「美の森30年 県立美術館の挑戦」

 「扉を開けて『美の森』に入り、再び外に出ると、現実の風景が少し違って見える」―。そんな理想を託された静岡県立美術館(静岡市)が開館30年を迎えた。国内外の風景画を中心に多くの作品を収集し反響を呼ぶ企画展を開いてきた半面、入館者の減少など課題も抱える。幅広い層の関心を掘り起こそうと努力する関係者の取り組みを、5月30日付夕刊から5回連載で伝えた。

 公立美術館の普遍的な役割は価値観の多様性を示すこと。取材した文化生活部の小林稔和記者は「地域の子供たちや美術に関心の薄い人が、初めて作品と出会う場としての存在意義を示したかった」と語る。

 大学と共催する展覧会や、美術の枠を超えて演劇など異分野と交流する取り組みを紹介する。第三者評価委の設置などの先進的な施策も報じた。

 一方、展覧会の入館者数は1994年度の41万人をピークに減少し、2014年度は10万人を下回った。小中学生の展覧会入館者数は全体の10%に満たないのが現状だ。県内の全児童が無料で美術館に入場できる「ミュージアムパスポート」を配布するなど、次世代や地域とつなぐ取り組みが続く。

 作品購入費や運営費は経費削減の対象になった。小林記者は「課題を指摘する一方で、教育普及事業など数値化できない美術館の価値を伝えることが難しかった」と話す。新たなファンの開拓や地域との連携など、美術館を取り巻く課題は新聞界と重なる部分もあるという。

 取材を通じて「不易流行」という言葉を何度も聞いたと小林記者は振り返る。連載で取り上げなかったものの、美術史から現代のアニメ文化までを扱った「美少女の美術史」という企画展も。工夫を重ねる学芸員らを目の当たりにし、時代に応じた柔軟な姿勢の大切さを感じたと語った。(斎)

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