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2016年 11月22日
共生社会の実現へ問題提起
日本海「伝える言葉 鳥取県手話言語条例施行3年」
2013年10月、鳥取県は全国に先駆け、手話言語条例を施行した。前文で「ろう者の人権が尊重され、互いを理解し共生する社会を築く」とうたう。10月13日付から3回連載で「手話先進県」の現状と課題を追った。
県政、教育、福祉の担当記者に米子市の西部本社からも記者が加わり、総勢5人で取材に臨んだ。キャップを務めた県政担当の北尾雄一記者は「受け持つ分野が異なるメンバーが集まったことで、より深く問題を探ることができた」と振り返る。
施行から3年がたち、手話への関心は高まりつつある。倉吉農業高校(倉吉市)では、生徒がろう者向けの乗馬教室開催に向け手話を学ぶ。県から派遣された手話普及支援員が指導に当たる。岩美高校(岩美町)は来年度から新科目「手話基礎」を設ける。「手話を使い活躍できる人材の育成」を目指す考えだ。
一方、聴覚障害者が日常生活で不便を感じることも多い。米子市の西部聴覚障害者センターで働く難聴者の山根和志さんは「買い物や仕事など大切な場面で意思疎通がうまくいかず、疎外感を味わうこともある」と明かす。手話の普及だけでなく、文字情報や集会、会議での要約筆記も充実させてほしいと訴える。
偏見の払拭(ふっしょく)も簡単ではない。病気で声を失い、食道を使って発声する人が周囲から奇異な目で見られ、苦しむ現状も伝えた。連載を統括した小谷和之政経担当デスクは、社会全体に障害と向き合う「当事者意識」ができあがるにはまだ時間がかかるとみる。「報道を通じて、共生社会の実現に向けた問題提起を続けたい」と語る。
北尾記者は「人口が少ない県だからこそ、一人一人に丁寧に目を向けることができる。鳥取から全国に広がった手話言語条例制定の動きが風化しないよう、検証を重ねたい」と話した。(有)