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2017年 7月18日
一本釣りの船上から存続問う
高知「激流の中の近海船」
「もう努力も限界だ。地域の漁業が生き残るために、船の隻数をこれ以上減らさないために、ほかに何をどうすればいいのか?」
9年間カツオ漁業を取材してきた報道部の福田仁記者は、一本釣り関係者の声をこう集約する。総員17人の近海一本釣り船に6日間乗り込んだ。6月5日付から全10回の連載で、高知県を代表する食材の行く末を探った。
「土佐の一本釣り」の行動範囲は広い。主な拠点は千葉・勝浦、宮城・気仙沼、鹿児島の3か所。遠方に出れば出るほど、外国の主権に向き合うこととなる。船主たちは常に国境を意識しながら領海内で操業している。
9年前にも8日間に渡り乗船取材した経験を持つ。連載では、この間の一本釣り業界の変化も記録した。日本人船員は高齢化が一層進み、インドネシア人実習生が急増した。高知県の遠洋・近海のマグロはえ縄船も同じような状況だという。
またこの9年間で、カツオの長期不漁傾向は、より顕在化した。背景には、熱帯域での各国巻き網船による過剰漁獲がある。土佐の一本釣りに代表される釣り漁業は、資源を取り尽くすことがない持続可能な形態だ。こうした地域経済を支える漁業を守り、存続させていく手立てを国全体で考える必要があると訴えた。
すべてを市場原理に委ね、行政の対応が後手に回れば、カツオの資源量は先細りしかねない。このまま一本釣り船の隻数が減り続ければ、餌のイワシを捕る漁業者も存続が厳しくなる。こうした負の連鎖を断ち切り、カツオと生きていくにはどうすればよいのか。外交政策、国際交渉にも関わる課題だ。福田記者は、「政治と行政は、この問いに正面から答える必要がある」と書いた。残された時間はもう少ないからだ。(野)