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2017年 12月5日
母なる川に戻らぬ要因探る
岩手日報「サケの乱 第1部 異変」
最盛期を迎えたサケ漁。今年は2014年に放流した稚魚が成長し生まれた川に帰ってくるはずだった。しかし今年度の宮古漁協の水揚げ量は東日本大震災前5年間の平均の約3割。14年は人工ふ化場が復旧し、放流数も震災前と同水準だった。
人工ふ化場で育てたサケは放流から3~5年後に元の川に戻ってくると信じられてきたのに、なぜ帰ってこないのか―。「本当の理由は誰も分かっていない」と連載を担当する榊悟報道部次長は話す。海面温度の上昇や、川に遡上(そじょう)してきたサケだけでなく、海で獲ったサケからも人工ふ化用の卵を採取する「海産親魚」という手法の影響など、考えられる要因はいくつかある。第1部では現場の苦悩とともに、要因について仮説を提起した。11月17日付から5回連載。
津軽石川での10日ぶりの漁。採卵用に獲れたサケの数は143匹と震災前の6分の1に満たない。人工ふ化用に確保できた卵も11月10日までに59万3千粒で、計画のたった11%だ。このままでは来春に放流する稚魚が足りないため海産親魚を使わざるを得ない。
要因の一つとみる海産親魚は禁じ手とも言われる。回帰してきたサケではないからだ。放流しても戻ってくる保証は無い。「理想の在り方ではないが、このままでは増殖事業が立ち行かない」。県さけ・ます増殖協会の危機感を伝えた。
自然の摂理に反する増殖事業をこのまま続けるべきか。記事では「母川を目指すサケの本能を、人の手で狂わせる可能性もある」と課題も指摘した。
今後はイクラの価格高騰など流通面の影響に迫る。不漁の要因を海洋環境の変化から捉えるため、海洋観測船に乗り込むことも考えているという。榊氏は「仮説と最新研究を交えて不漁の原因に迫りたい」と述べた。(海)