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2020年 1月1日
闇組織の実態 青年の告白
福井「受け子その大罪 福井の特殊詐欺」
ツイッターで高額バイトの案内を見つけたのが始まりだった。男性は23歳(掲載時)。金融庁職員をかたり、1か月弱で約30枚のキャッシュカードをだまし取った。引き出した額は約2千万円。2018年10月、福井県内で逮捕され、1年後に懲役3年6月が確定した。
県警キャップの嶋本祥之記者が19年5月から半年間、未決勾留中の男性を取材した。特殊詐欺集団の末端「受け子」の実像や手口の詳細を描き、読者に注意喚起した。11月27日付から全6回。
警察官を装った「かけ子」が狙った家に電話する。あなたのキャッシュカードが偽造された。今から職員が行く。用意した封筒にカードを入れ、3日間保管するように――。すぐさま受け子が家を訪ねる。カードを封筒に入れさせ、印鑑を取りに行かせた隙に封筒をすり替える。
嶋本記者によると、男性は「ごく普通の青年」。車のローンや恋人の手術代などで200万円の借金があった。詐欺集団から提示された報酬は引き出した額の8%だった。
不安や罪悪感から、指示役側に「辞めたい」と電話で伝えると、家に殴り込むと脅された。他のメンバーの素性は一切分からない。
刑務所での面会は30分以内。嶋本記者は最初の取材で「実態を全て聞かせてほしい。あなたの体験を伝えることで、犯行に加わる若者や被害者を減らしたい」と伝え、理解を得た。取材は10回以上に及ぶ。
体験談の記事化には本人の更生を促す狙いもある。かつて取材した車上狙いや飲酒運転の逮捕者は一様に「記事を大切に保管し、二度としないと誓う」と語ったという。
男性は面会中、経済関係の本の差し入れを嶋本記者に頼んだ。理由は「勉強して自立できるようになりたい」から。記者の願いは届くか。(酒)