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2020年 10月13日
ネットの差別助長に危機感
京都「『#安楽死』の果てに 京都ALS嘱託殺人事件」
「人間らしい生活ができないなら死ぬ権利だって基本的な人権ですよね。 #安楽死」。筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患った林優里さん(当時51)は生前、ツイッターにこう投稿していた。検索の目印「#」を使い、安楽死を望む人々と共鳴する中で、願望は加速。ツイッター上で出会った医師2人に殺害されることを自らの意志で選んだとされている。
報道部の中塩路良平記者は、この事件を「個人の問題ではなく、SNSが生んだ社会の問題」と捉えた。7人の取材班が林さんの遺族、病に悩み死を望む人、障害と向き合って生きる人に、事件に対する思いを聞いた。連載は8月23日付から全4回。
「早く自殺ほう助を合法化してほしい」。「#安楽死」でつながるコミュニティー内には安楽死に反対する人はほどんどいない。難病患者の20代女性は安楽死を望む理由の一つに社会への罪悪感を挙げた。「生きていても、社会の役に立てない。私には生産性がない」
中塩路記者は、この女性が命の価値と生産性を結び付けていることが気に掛かった。こうした発想は、相模原市の障害者殺傷事件を発端にインターネット上で相次ぐ優生思想を反映しているのではないか――と考えた。
記事では「ネット上の一部で見られる差別的な思想の影響を受けているようにも見えた」と補足した。当初は女性の言葉だけを取り上げるつもりだった。「どこまで解釈を加えていいのか今も悩んでいる」と中塩路記者。
それでも、死に気持ちが傾く人が現れる現状に対し「ネット社会によって、生きる価値がないと刷り込まれているのではないかと問題提起したかった」と語る。事件の公判前整理手続きが10月26日に控える。「生きたいと思える社会をつくるにはどうしたらいいのか考えていきたい」 (浅)