2021年 4月6日
過疎高齢化 届かぬ人の目

高知新聞「消えていた炎~限界の山里で」

 そこにあるはずの民家がない――。山あいにある高知県仁淀川町別枝。別枝の都地区に住む女性は2月10日午前、隣の中村地区の通い慣れた林道を車で走っていた際、道路沿いに住む一人暮らしの男性(当時87)の家が焼け落ちていることに気付いた。既に火や煙はない。消防や警察、近所の人も気付かなかった。現場からは1人の焼死体が見つかった。

 佐川支局の楠瀬健太記者は警察から連絡を受け現場に向かった。家から約250メートル先まで住んでいる人はいない。「過疎高齢化地域を象徴する出来事が起きた。現状をありのまま伝えよう」。周辺住民らに話を聞き、「孤独焼死」の背景を探った。3月3日付から4回連載。

 中村地区の住民は亡くなった男性を含め6人。「人がおらんき、どうしようもないわね」「24時間巡回するわけにはいかんしね」。別枝の住民からは諦めの声も聞こえる。一方、地域のつながりは弱くはなかった。2月9日には介護ヘルパーが男性宅を訪ねている。夕方までは家は無事だったことを確認した人もいる。

 一人暮らしの高齢者が多い町内。ヘルパーの女性は「そこで暮らしたいと言うなら、思い通りにさせちゃりたい」と言う。しかし女性の事業所のヘルパーは50~70代の5人だけ。1人で1日5~6軒を回っている。楠瀬記者は「女性のつくため息が深い」とつづった。

 別枝の孤独焼死を受け、浜田省司知事は3月2日の県議会で「地域の見守りや支え合いの仕組み作り」に言及した。「実情を見逃さずに問題提起すれば、行政や社会の動きにつながる」と楠瀬記者。県は今年、10年ぶりに小規模集落の実態調査を実施する。

 同じことはどこの地域でも起こり得る。だからこそ「都会に住む人、県外の人に少しでも記事が届いてほしい」。連載は電子版でも読める。(海)

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