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2021年 5月11日
抑圧生む閉鎖性に警鐘
沖縄タイムス「問われる『指導』 部活生自殺」
沖縄県立高2年で運動部主将を務めていた男子生徒が今年1月末、自ら命を絶った。部顧問の男性教員によるパワーハラスメントが原因とみられている。生徒は顧問と電話や無料通信アプリ・ラインで日常的にやりとりしていた。自宅でも顧問の存在におびえていたという。
第三者の目が届かない空間で、同じように苦しむ子供がいるかもしれないー。社会部の徐潮記者ら3人の取材班が、遺族や教育関係者、スポーツ指導の専門家らを取材。生徒を死に追い込んだ要因を探った。3月23日付から全6回。
遺族によると生徒は常に顧問からの着信を気にしていた。食事中でも「すぐ出ないと怒られる」とスマートフォンにつないだワイヤレスイヤホンを外さなかったという。ある日のラインの履歴には「先生の指導が必要です。お願いします」と顧問にすがるような言葉が残る。
送信時間は午後11時前。この1時間前から、顧問は生徒を突き放すような言葉を送り続けていた。徐記者は生徒が家でも緊張を強いられ、精神的に追い詰められたと推し量る。
徐記者にとって、初めての遺族取材だった。「記事にしても生徒は生き返らない。苦しんでいる遺族に、どこまで取材すべきか」と悩んだという。取材を進めるうちに、生徒が命を絶つ前にスマホの画面ロックを解除していたことを知った。「息子は命を懸けて『指導』の問題を訴えたのだと思う」との遺族の言葉を聞き、報道を通して生徒の思いに応えると決意したという。
事件は顧問個人だけの問題ではなく、閉鎖的な空間での上下関係が引き起こす構造的な問題だと徐記者はみる。どこでも起こり得るからこそ「他の学校の管理職や教員、保護者にも当事者意識を持ってもらい、再発防止につなげたい」と語った。 (浅)