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2023年 8月8日
産まない選択巡る課題に焦点
南海日日「揺らぐ命と権利 #奄美 #望まない妊娠」 7月7~9日(全3回)
奄美大島で人工妊娠中絶の処置を担ってきた産婦人科医院が2023年2月に閉院した。島内に代替施設がほぼないため、中絶を望む患者は基本的に島外で受診しなければならなくなった。移動に伴う経済的な負担増で、本人の意思に反した妊娠継続の懸念が高まっている。
「産まない権利」が揺らぐ中、当事者だけでなく地域全体で考えるべきことがあるのではないか――。妊娠中絶を巡る問題を周知したいと考えた報道部の西谷卓巳記者は産婦人科医や当事者支援に携わる関係者らに現状や課題を聞いた。
医療体制の問題だけでなく、産むか、産まないかという命に関わる選択を背負う女性が心理的に追い詰められていることにも焦点を当てた。中絶をタブー視する風潮は根強く、海外製の経口妊娠中絶薬をひそかに個人輸入する女性もいるという。妊娠に関する相談を受ける助産師らによる有志団体「にんしんSOSかごしま」の野中涼子代表が、妊娠に伴う不安に「寄り添える存在であり続けたい」と語ったと紹介。野中氏が同団体の相談窓口の利用を呼び掛けていることを伝えた。
「望まない妊娠を避けることが大切だ」と西谷氏。年齢に応じた性教育で、子供が気兼ねなく相談できる雰囲気を家庭で作ることが重要だとの助産師らの提案を挙げた。
妊娠中絶は女性だけの問題ではない。西谷氏は「男性にも当事者意識を持ってほしい」と話す。連載では、野中氏による「女性1人で妊娠はできないのに、何かあれば矛先が向けられるのは女性」との指摘や「それでいて妊娠継続・中絶を負担なく選べる環境は整っていない」との声を取り上げた。
市の助産師は「産まない権利」などについて、情報発信を続けることで「主張しやすい風潮にしていくしかない」と語った。西谷氏は新聞社の発信が「一人で悩む当事者の助けになればよい」と力を込める。(遼)