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2024年 1月16日
「普通」の兄妹が抱く痛み
長崎「消えない傷... 父からの性虐待 兄からの連絡」 12月3~4日(全2回)
長崎は11月16日付紙面に、高校生のころ父に性虐待を受けた40代女性の話を伝える記事を載せた。女性は旧ジャニーズ事務所の性加害問題報道を見て父の行為が性虐待だと認識。父はすでに他界していた。掲載後、女性の兄から報道部の熊本陽平記者に電話があった。兄は妹を支えるため「(妹と)一緒に考えたい」と述べた上で、熊本氏に協力を求めた。熊本氏は「家族の再構築の力になれるなら」との思いから、3人で会うことに応じた。
当初、記事化するつもりはなかったという。妹の性被害に気付いていなかった兄は「ストレスのはけ口」として父が加害に及んだのではないかと「分析」。加害者を減らす活動がしたいと話した。熊本氏は父への怒りを前面に出すこともなく「客観的に捉え、冷静に語り続ける」兄の姿勢に違和感を覚えた。「まずは妹に寄り添い、支えることが大事ではないのか」と、その場で問い掛けた。
考え込んだ兄は、妹の被害を知らなかった反省だけでは「(事実を)消化させる自信がない。このままでは生きる意味を見いだせない」との「本音」をこぼした。妹は、生きることへの執着が薄い兄に共感を示したという。妹の話では、兄も日常的な暴言などの虐待を父から受けていた。
周囲から見れば「普通」に見える2人が、虐待を受けたために今もそれぞれ苦痛を抱えている。こうした事実は「読者の身近なところでも起きている」――。熊本氏は、それを明らかにすることに記事化する意味があると考えたと説明する。
3人のやりとりを連載化した。連載は、虐待を受ける子を減らすために何ができるかと考え、行動を起こそうとする2人の姿を報じた上で閉じた。翻って、メディアに果たせる役割はまず「実態を浮かび上がらせること」だと熊本氏。性虐待は今後も「書かねばならないテーマ」と捉えている。(斎)