2024年 3月12日
忘却に異議 問い直す人々

河北「オルタナ伝承館 原発事故13年」 1月19~23日(全4回)

 東京電力福島第一原発事故を題材とするアート作品を集めた美術館「おれたちの伝承館」(福島県南相馬市小高区)。東京都の写真家・中筋純さんが昨年7月に開設した。避難できず牛舎に残され、柱をかじりながら餓死した子牛を模した立体作品など約80点が並ぶ。「おれ伝」の魅力は、作品を理解しようとすると背景にある原発事故について自然と「考えてしまう」こと――。福島総局の東野滋記者はそう説明する。

 官製の伝承施設と対をなす民間の伝承館が浜通りに点在する。独自の視点で事故を問い直すこうした「オルタナティブ」(もう一つの)伝承館を東野氏ら3記者が取材。「おれ伝」など計3館を取り上げ、施設を守ったり支えたりしている人に焦点を当てた。

 「おれ伝」の近くで旅館を営む小林友子さんは開設を後押しした一人。南相馬市に伝承館がなく、小高区の全住民が事故に伴い避難したという事実さえ忘れられそうな危機感を抱いていた。「おれ伝」の構想を知り、事故の忘却に異議を唱える中筋さんに共鳴。物件探しの段階から協力した。開館準備作業が始まると近所の平屋を購入し、宿泊用に貸し出した。また、食事や風呂を提供した。

 連載は「人生を変えられた人の無念さを伝える場所が必要」「残さなければ全て消されてしまう」との小林さんの思いを紹介。東野氏は読者に対し「(原発事故を)なかったことにせず、自分たちにできることを行動に移している人がいると知ってほしい」と話す。

 3館はいずれも事故から10年を経て開館した。東野氏は「国や東電ではなく自分たちで復興や廃炉について考えよう」との動きが福島県内で生まれているとみる。触発され、これから声を上げる人も出てくるかもしれない。事故から13年の間に「何も言えなかった人」もいるはずだと東野氏。今後の報道でこうした人の声を掘り起こしたいと語った。(斎)

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