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2014年 1月21日
政治・経済の先行き懸念
地方の自立促す論調も
2014年初めの地方紙の社説・論説には政治や経済の先行きへの不安や懸念が色濃い。集団的自衛権行使容認などを目指す安倍政権の政治路線への懸念に加え、福島第一原発事故が収束しない中での原発再稼働の動きに不安が広がる。アベノミクスによる景気浮揚効果も地方では実感が乏しい。人口減少や高齢化による地域の衰退に歯止めをかけようと、あらためて地方の自立を促す論調も目立った。
危険な「積極的平和主義」
《保守化》 安倍政権の保守化路線に懸念が強まっている。北海道は「日本は今、勢いをつけて曲がり角を進んでいる。戦後守り続けてきた平和国家から決別する路線である」と指摘。「日本版NSCの設立、特定秘密保護法の制定...。安倍晋三首相は『積極的平和主義』と呼ぶが、軍事偏重路線に他ならない。国民の権利制限をも含む危険な道だ」と断じ、「しかし私たちは流されるわけにはいかない。道しるべは憲法である」と説いた。愛媛も「気がかりは政権が保守色の強い安全保障政策などの実現に比重を移し始めたことだ。その先には、集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更などを見据えている。それだけに、国民の基本的権利を奪いかねない特定秘密保護法や、その成立過程でみせた強権的手法に潜む危うさに無頓着であってはならない」と警戒。南日本は「平和主義という衣の下から、軍備増強の正体がのぞいているようだ。積極的平和主義の中には、憲法解釈で禁じられてきた集団的自衛権の行使が含まれているのは間違いあるまい。国会できちんと検証しなくてはならない」とクギを刺した。静岡も「首相は今年、集団的自衛権行使の解釈変更を目指し、最終的には憲法改正を視野に置いている。国論を真っ二つにしかねない重大な問題で、多数で押し切る性質のものではない。国民と対話し、野党と議論を重ねる『熟議の政治』をあらためて求めたい」と訴えた。琉球は「安倍政権は『積極的平和主義』を掲げ、集団的自衛権の行使容認や武器輸出三原則緩和、自衛隊増強など、軍事拡大路線をひた走っている。軍事力を過信せず、非軍事的な国力を駆使し、戦略的互恵関係の構築により安全を実現するのが、平和国家のあるべき姿だ」と強調。米軍普天間飛行場の辺野古移設を批判し、「沖縄は東アジアの緊張を沈静化し、『軍事の要石』から『平和の要石』へ転換する構想を描くべきだろう」と主張した。
《原発政策》原発立地地域では安倍政権が目指す再稼働への不安が根強い。新潟は「福島原発の事故からも3年がたつ。事故の検証も終わっていないのに、政府は全国の原発再稼働へとかじを切る姿勢がうかがえる。柏崎刈羽原発がある本県でも、本年中の再稼働を目指す国や東京電力の動きに注視する必要がある。安全性が第一であることは当然だ」と再稼働に慎重な対応を求めた。茨城も「今年、注視したいのは原発再稼働に向けた動きである」と強調。「原発の安全神話が崩れたことは疑いようもなく、経済性にも疑問符がつく。核のごみの処分問題も解決の糸口さえ見えない中で拙速な判断は避けたい。(略)『即ゼロ』は難しくても段階的な削減の道筋を示し、再生可能エネルギーの有用性を探っていくことが原発事故から学んだ大きな教訓ではなかったか」と論じた。国はエネルギー基本計画素案で原発を「重要なベース電源」と位置付けたが、福井は「東京電力福島第1原発事故が収束できず、除染も不十分な中で、原発の安全確保と電力の安定確保をどう両立させるのか。新エネ戦略、核のごみ処分も先送りできず、よほど説得力のある国の政策、説明責任が求められる」と注文を付けた。福島第一原発の地元では福島民友が「3月になれば丸3年になるというのに、まだ14万人近くの県民が避難生活を送っている」と強調。「国や県、市町村は、復旧・復興策が、現状や住民のニーズに合っているかどうか再点検し、不十分な点は速やかに改善、強化してもらいたい。避難者への施策だけではない。今なお多くの県民が風評被害に悩み、低線量被ばくの不安を抱えていることを忘れてはならない」と訴えた。
アベノミクスは正念場
《地方景気》アベノミクスによる景気回復効果については、まだ実感が乏しい。秋田魁は「安倍晋三政権誕生から1年余。アベノミクスにより経済が回復傾向に転じたのが最大の実績だろう。しかし地方がその恩恵に浴しているかといえば、まだ実感が湧かない。4月の消費税増税で景気の腰折れも懸念される。アベノミクスは今年が正念場といえる」と指摘。東奥も「『アベノミクス』効果で景気は回復傾向にあり明るい兆しは見えてきた」としながらも「庶民や地方にとってなお実感は乏しい。4月からの消費税増税による景気減速を乗り越え、デフレ脱却、経済再生、財政健全化の好循環を描き出せるか。アベノミクスの真価が問われる」と論じた。高知は「『アベノミクス』の効果はまだら模様で、4月には消費税増税が控える。(略)将来に対する国民の不安も根強い。消費増税をはじめ負担が増す一方、安心につながる持続可能な社会保障の将来像は描けていない。財政再建への道は公共事業の大盤振る舞いなどで先行き懸念が増している」と警戒。山陽も「賃上げがないまま、負担増が先行すれば、個人消費は落ち込み、景気腰折れへの懸念は増すだろう。アベノミクスの効果が出ていないとされる地方にとって、景気失速の影響は心配だ」と訴えた。
《格差拡大》東京と地方の格差拡大への不安も深まる。中国は「デフレから脱却しても、まばゆいほど明るい未来が待つはずもない。地方にとってはなおのこと、言いようのない不安が忍び寄る」と懸念。「中央と地方、富める者と貧しい者という二つの格差が、修復も難しいほどに大きく開いた。それが今の日本の姿といえよう」と強調。格差縮小の手立ては「地方の自立に向け権限や財源を国から自治体へと移譲することではないか」と主張した。神戸は「今、『強い国』の掛け声の陰で切り捨てられるものはないか。東京と地方の格差はさらに拡大している。成長戦略の柱として掲げられた国家戦略特区で都心の容積率が緩和され、高層のマンションやオフィスが建設しやすくなった。五輪に向け、東京への集中が加速する」と指摘。「地域社会の維持に知恵を絞らねばならない」と呼び掛けた。山陰中央は「東京五輪開催決定という追い風もあり景気回復の足取りは確かだが、同時に豊かさの東京への一極集中の懸念もある。経済再生の処方箋が最も求められているのは地方であり、2014年の地方には独自の成長戦略を描く必要がある」と自覚を促した。
地域振興や防災・環境に注目
【1面トップ】22紙がニュース、33紙が企画、17紙が連載でスタートした。
《ニュース》北海道「JR子会社 保線費用から裏金か 発注水増し返納指示」はJR北海道子会社の不正を追及。観光などの地域振興関連では、函館「青函連携観光地めぐり 16年度に『博覧会』計画」、北國「金沢駅に本物のかがやき 工芸回廊に31品目 コンコースも装飾」、長野「鹿製品に託す夢 『すわしかプロジェクト』始動」など。防災・環境関連では、熊本日日「巨大地震に備え大型輸送機駐機場 九州防災拠点に熊本空港」、京都「渋滞・事故ゼロ 夢の交通 京に研究所 京都市、14年度方針」など。岩手日報「県央に新『副都心』」や神奈川「横浜文体再整備へ 武道館機能も検討」などは都市整備の動きを取り上げた。
《1面連載》南日本「暴走 徳田王国」は選挙違反で摘発された徳洲会の暗部を探る。宮崎日日「だれも知らない」は子どもの貧困問題を考える。静岡「変わる危機管理」は防災の取り組みを追う。県民福井「キーパーソン ふくいの元気を創る人たち」、茨城「『あした』探して 現代若者点描」は地域の若者らの姿を紹介。岐阜「ぎふシニア新時代」、神戸「未踏の領域」は高齢化を取り上げた。
【ページ数】在京紙を含め別刷り込みのページ数は31紙が増加、15紙が減少、53紙が増減なし。100ページ以上は昨年より3紙多い35紙。(審査室)