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2016年 9月6日
国民的な議論を尽くせ
時代に合った制度検討を
天皇陛下は8月8日、象徴としての務めに関する考えを表明された。憲法上の立場から直接表現は避けながら、生前退位の意向を強くにじませ、国民に理解を求めた。現代社会に適した象徴天皇制の在り方をどう考えるか。各紙は国民的な議論を求める社説を掲載した。
政治責任に言及も
82歳の陛下はビデオメッセージで、高齢に伴う身体の衰えから「これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と公務を継続することへの懸念を表明した。
信濃毎日は「憲法は4条で天皇は『国政に関する権能を有しない』と規定する。お言葉が国政の問題につながる『退位』に触れなかったのは憲法を尊重するが故だろう」と分析した。
産経は「陛下は、社会の高齢化が進む現代の天皇として、『どのようなあり方が望ましいか』を考えたことを率直に明かされた。重く受け止めなければならない」と主張した。
朝日も「高齢の陛下に公務が重い負担になっていること、その陛下を支える皇族の数が減り、皇室活動の今後に不安があることは、かねて指摘されてきた」とした上で、「拙速は慎むべきだが、さりとて時間をかけすぎると、皇室が直面する危機は深まるばかりだ」と強調した。
日経は「2度の外科手術を経た陛下が高齢になり自らお気持ちを表明するに至るまで、象徴天皇制の在り方について議論を怠った政治の責任は重い。反省を促したい」と政治の責任に言及した。
現行制度で生前退位は可能なのか。毎日は「皇室典範4条は『天皇が崩じたときは、皇嗣(継承順位1位の皇族)が、直ちに即位する』としている。天皇の地位は『終身制』を前提にしており、退位の規定はなく、皇室典範を改正する必要がある」と法改正の必要性を説いた。
中日・東京は「皇室典範は天皇の生前退位を想定していない。お気持ちにそうには皇室典範改正や特別法、元号問題など多くの検討事項があり、早急に着手すべきだ。同時に天皇が国民に直接語りかける異例の形であえてお気持ちを表明した背景は、生前退位だけでなく、今後の天皇制や皇室の在り方についての問題提起とも考えるべきだろう」と主張した。
一方、読売は「生前退位には、様々な難問があることも否定できない。自発的退位は、『国民の総意に基づく』という象徴天皇の位置付けと矛盾するとの意見がある。高齢を理由とすると、一代限りの話では済まなくなることも考えられる。政治的思惑により、強制退位させられる恐れもあるとして、生前退位を否定してきた政府の国会答弁との整合性の問題もある」として、有識者会議などで議論を尽くすべきだとした。
世論踏まえ見直しを
被災地への見舞い、戦没者慰霊など各地を訪問してきた陛下は、「天皇の高齢化に伴う対処の仕方が、国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます」と述べた。
これについて下野は「高齢者や障害者に寄り添い、太平洋戦争の激戦地サイパン島や沖縄などを訪れ、戦争犠牲者の慰霊にも心を砕いた。それが陛下にとって象徴のあるべき姿であり、宮内庁による公務の削減に難色を示してきた。その姿を受け入れてきた国と国民が今度は、陛下の意向を後押ししなくてはなるまい」と主張した。
北海道は「天皇の公務を巡っては、定義や範囲を明確にすべきだという専門家の指摘もある。そうした課題を含め、政府は世論を踏まえた制度の見直しを行ってもらいたい。もちろん、そこに皇室の政治利用はあってはならない、それが大前提だ」と今後の議論にクギを刺した。
琉球は「お気持ちの表明を受け、生前退位をめぐる議論が国会などで進むことになるが、実現には退位制度新設、新たな元号や退位した天皇の呼称など、問題が山積している。国民一人一人が『国民統合の象徴』としての望ましい天皇の在り方を見いだす意識を強めたい」とした。
西日本は「『国民の理解を得られることを、切に願っています』、天皇陛下は約10分のメッセージをこう締めくくられた。陛下の思いを踏まえ、まさに国民的な議論を深めていきたい」と期待を込めた。山陽も「今回の陛下によるメッセージの公表は、生前退位という皇位継承とともに、現代社会に適応した天皇や皇室の在り方についても考える契機となろう。陛下からの投げ掛けに対し、国民的な議論を深めていくことが必要だ」と提起した。(審査室)