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2017年 7月4日
刑事法転換の是非論じる
採決の手法に非難相次ぐ
犯罪を計画段階から処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法。その成立は日本の刑事法の原則に大転換をもたらすとあって各紙が社説を構えた。しかも、参院の委員会採決を省略して本会議採決に持ち込んだことに厳しい批判が続いた。
「共謀罪」かテロ対策か
「共謀罪」を法律名に取る社が大半を占める中、「共謀罪とは別物であることは明らかだ」と断じたのが読売。「テロ準備罪成立」と見出しに掲げ、「犯罪の芽を事前に摘み取り、実行を食い止めることが、テロ対策の要諦」「テロ集団の活動を根元から封じるための武器として、改正法を活用したい」と説いた。
産経は「テロ等準備罪」と、記事も見出しも「等」を入れた上で、国連が採択した国際組織犯罪防止(TOC)条約を「これでようやく日本も締結することができる」と評価。「テロ集団や暴力団犯罪を摘発するには通信傍受や司法取引などの捜査手段が有効」とし、これらの「不断の検討が欠かせない」と求めた。北國も「テロ等準備罪」と表記、「政府は速やかに条約を締結し、国際的な犯罪組織の情報入手に努めてほしい」とした。
これに対し「改正の対象は組織犯罪処罰法であり、条約も法律も、ともにテロ対策ではなくマフィア型の犯罪を封じる枠組み」としたのが日経。「政府・与党はテロ対策を掲げて説明してきたが、期待される効果には限界がある」とし、テロ抑止策はあらためて検討すべきだと唱えた。
「共謀罪が与党の数の力で成立した」と切り出したのが中日・東京。「まるで人の心の中を取り締まるようだ。『私』の領域への『公』の侵入を恐れる」とした。
上毛も「犯罪が実行されて初めて罰するという刑事法の原則の大転換となり、一気に277の罪で共謀・計画が処罰の対象になる」と指摘。信濃毎日も「まだ起きていない犯罪」を取り締まるには「『危険』とみなした組織や個人の動向」を常日頃からつかむ必要があるとして「通信傍受のほか室内に盗聴器を置く『会話傍受』の導入を求める動きが強まりそうだ」と懸念を示した。
神戸は「その先にどんな社会が待っているのか」と問い掛けた。メールや電話のどんな会話が法に触れるか疑心暗鬼になり、「そんな心理が広がれば社会は萎縮へと向かう」。加えて「自首と密告」で「刑を軽減することを奨励する条項も盛り込まれた」ことに着目、その結果「何も言わない、言えない社会の姿が浮かび上がる」とした。京都も「共謀を立証するのは難しい面があるため、捜査が肥大化する恐れ」があるとし「行き過ぎた運用に対する確かな歯止め」の必要性を訴えた。
また熊本日日はTOC条約について「『立法ガイド』を執筆した米国の法学者によれば、この条約はテロ対策を目的としたものではない」と指摘した。神奈川も、国連人権理事会が選任した特別報告者が「法案によるプライバシー権の侵害を払拭するよう」安倍首相に求めたものの、逆に非難されたことなどを示し「なぜ、内外で高まる異見や異議に背を向け、耳を貸そうとしないのか」と問うた。
「国会軽視は国民軽視」
法案の内容以上に、参院の委員会採決を省略し、いきなり本会議で採決した手法に非難が続いた。
毎日は「テロなどを防ぐ治安上の必要性を認めるにしても、こんな乱暴な手法で成立させた政府を容易に信用することはできない」と指弾。朝日も「国会の歴史に重大な汚点を残しての制定」「権力の乱用が懸念される共謀罪法案が、むき出しの権力の行使によって成立したことは、この国に大きな傷を残した」とした。
「極めて簡単な委員長報告だけで本会議で賛否を問うのはいかにも乱暴。それも真夜中だ。政権の国会軽視は、すなわち国民軽視と言わざるを得ない」(岩手日報)
「十分議論を尽くしたとは言い難い審議状況で数の力を頼りに成立を図る。特定秘密保護法、安全保障関連法、カジノ法と、安倍晋三政権下で繰り返されてきた光景が、またも再現された」(静岡)
「数の横暴が頂点に達したという思いを強くする」(河北)
「これが『1強政治』の実態、なれの果てなのだろうか」(山梨日日)
「『良識の府』といわれてきた参院の使命は一体、どこへ行ったのか」(山陽)
さらに「『加計問題隠し』だとしたら断じて許されない」(徳島)との声も出た。「政権の強行姿勢は、ついにここまできた」とする沖タイは「行政府・内閣をチェックするはずの立法府・国会がその役割を放棄するなら、ただすのは国民しかいない。安倍首相は選挙で国民に信を問うべきである」と求めている。(審査室)