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2018年 5月8日
海外派遣の実態検証を
隠蔽は文民統制の危機
陸上自衛隊のイラク派遣時の日報が開示された。銃撃戦など「戦闘」の記述を巡り、各紙は社説で自衛隊の海外派遣の検証が必要だと主張。日報がいったん「存在しない」とされ、発見後も防衛相への報告まで1年以上かかったことは「隠蔽(いんぺい)」と厳しく批判した。
安保法見直しが必要
日報には宿営地サマワで銃撃戦があったことや、英軍と武装勢力を巡り「戦闘が拡大」の記述があった。河北は「政府が言う『非戦闘地域』と実態はかけ離れていると言わざるを得ない」と断じ、「過去の海外派遣を含めて自衛隊の活動実態を精査し、その教訓を踏まえて安保法の見直しなどの議論が必要」と検証を求めた。
愛媛は、イラク派遣の自衛官にその後、自殺者が相次いでいることを挙げ「危険と隣り合わせだったことは間違いない」と指摘。熊本日日も「当の隊員たちは派遣先を『戦地』と認識していたことが明確になった」とし、イラクの状況の厳しさが国会で共有されていれば、安保法の議論にも影響したのではないかと問うた。
沖タイは、米国や英国のイラク戦争の検証と比較し「日本政府はいまだに詳細な検証を行っていない」「安全保障関連法についてもイラク派遣の経験を踏まえ、その中身を検討し直すべきである」と訴えた。中国は「派遣の前提条件が崩れていながら派遣を続けていたとすれば、責任の所在も問われなければなるまい」とした。
中日・東京は「海外での自衛隊活動をむやみに拡大しないためにも、イラクへの自衛隊派遣に関する情報を公開して、政府判断の妥当性を検証し、教訓とすべきだ」と強調した。
開示された日報は派遣期間の45%分。宿営地にロケット弾の攻撃などがあった2004年10月から05年初めの分が抜け落ちていた。黒塗り部分も多い。「残る文書も発見に努め、派遣の再検証と安保関連法の再検討を行うべきだ。その場しのぎの理屈では、派遣される隊員を危険にさらすばかりだ」(岩手日報)、「国民が知るべき記録がまだ隠されていないか。政府は開示と再検証を進め、教訓を国民と共有すべきだ」(京都)、「黒塗りの部分には、隠しておきたい都合の悪い情報があるのではないか、と勘ぐられても仕方あるまい」(徳島)などと批判が目立った。
一方、読売は日報を「自衛隊が過酷な環境下で復興支援活動にあたっていたことを示す貴重な資料」とし「将来の海外派遣に役立てねばならない」「十数年前の資料を巡って政府を責めるのは非生産的である」としたほか、「他の行政文書と同列に情報公開の対象とすべきかどうか、検討が必要となろう」と論じた。北國も、活動地域の規定が「国際平和支援法」に受け継がれているとし「非戦闘地域をどう認定するか、という難しい課題を抱えていることに変わりはない」「日報をぞんざいに扱わず、今後の国際平和支援法の運用に生かしてもらいたい」と求めた。
毎日は「『戦闘』の記述は重要ではあるが、その有無ばかりにとらわれていたら、日本の安全保障論議は成熟しない」と指摘。「冷静に活動内容を評価する中で問題点を明らかにし、その教訓を今後に生かせばいい」と説いた。
真相究明は首相の責任
防衛省が日報をいったんは「ない」としていたことには厳しい批判が並んだ。産経は、昨年3月の発見時、当時の稲田朋美防衛相や統合幕僚監部などに報告がなかったことを「あきれるほかなく、隠蔽体質と指弾されても仕方がない」とした。稲田氏ら当時の首脳部に対し「『知らなかった』ことを含め、自分たちの指導力不足を猛省してほしい」と責任を指摘した。
日経は森友、加計学園の問題でも財務省や文部科学省で「ない」とされた文書が次々に見つかっていることと合わせて「各省が行政判断の経緯を記録し、公開する基本ができていない」「防衛省・自衛隊の報告の遅れは、文民統制(シビリアンコントロール)にかかわる重大な問題だ」とした。
北海道は「首相が事態の深刻さを認識するなら、具体的な行動で示す必要がある。真相究明は防衛省の内部調査に任せるのではなく、強力な権限のある第三者組織を設置するなど自身が主導すべき」と安倍首相の責任を論じた。
朝日も「責任が極めて重いのは、組織を掌握しきれない防衛相だけでなく、自衛隊の最高指揮官である安倍首相である」とし、自衛隊の隠蔽体質を一掃し、文民統制を機能させることは首相の責任だと強調。「その立脚点なしに、国民の幅広い理解を必要とする9条論議などできないということを、首相は肝に銘じるべきだ」と論じた。
琉球は、小野寺五典防衛相に対し「事実を隠蔽した組織のトップとしての小野寺氏の責任は重大であり、速やかに辞任すべきである」と主張した。(審査室)