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2019年 2月5日
護衛艦の「空母化」に賛否

組織見直しと効率化必要

 政府は昨年12月下旬、新しい防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防)を閣議決定した。宇宙やサイバー、電磁波を扱う電子戦で敵の通信などを妨害する能力の強化を明記。こうした新たな領域で積極的な防衛ができる能力を高め、陸海空の各自衛隊の統合運用を進める新概念として「多次元統合防衛力」を打ち出した。各紙の社説は、日本を取り巻く安全保障環境の急変を踏まえて防衛力のあり方を見直す必要性を認めつつも、専守防衛との整合性や防衛費の拡大傾向などさまざまな問題点を多面的に論じた。

専守防衛の転換点

 次期中期防には、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」型の2隻を改修し、ステルス戦闘機F35Bを運用する方針を盛り込んだ。読売は「『攻撃型空母は保有できない』という過去の見解に必要以上にとらわれるのは、生産的とは言えない。政府は、いずもの柔軟な運用を検討すべきだろう」と賛意を示した。産経も「F35は現時点で入手し得る最新鋭の戦闘機であり、防衛力増強に必要だ」とした上で、「いずも型の空母改修が専守防衛に触れるとの反対論は誤りだ。国民を守る上で有益か、費用を負担できるかという有用性の論理に立って判断すべきで、その観点から改修は妥当である」と断じた。北國は「専守防衛原則を絶対視し続けることが、本当に国民の安全のためになるのかという本質的な議論を行うことも必要ではないか」と問題提起した。

 一方、朝日は「自衛隊の攻撃的な能力は少しずつ整備されてきたが、今回は一線を越えたと言わざるをえない」と指摘。「改修後のいずもは戦闘機を常時艦載しないので、『空母』に当たらないと説明するが詭弁(きべん)というほかない」と批判した。秋田魁は「わが国が守ってきた『専守防衛』からの逸脱は明白である。安倍政権の軍備拡張路線には危惧を抱かざるを得ない」と警鐘を鳴らした。中日・東京も「米軍との協力などを理由に『いずも』型が専守防衛の枠を超え、攻撃的兵器として運用されることがないとは言い切れまい」と訴えた。

 次期中期防では、2019~23年度に調達する防衛装備品などの総額が27兆4700億円程度と過去最高の水準に膨らんだ。毎日は「少子高齢化で国民負担が増大し、社会保障費が厳しく切り詰められる中、防衛費だけが聖域であってはならない」とくぎを刺した。中日・東京は「周辺情勢の変化を理由に防衛予算を増額し続ければ、再び軍事大国化の意図ありとの誤ったメッセージを与え、周辺情勢を逆に緊張させる『安全保障のジレンマ』に陥ってしまうのではないか」と懸念した。

 日本が米政府と直接契約して最新鋭装備を調達する有償軍事援助(FMS)への疑問の声もあった。北海道は「FMSによる購入価格は、米側の提示額を日本側がほぼ受け入れる『言い値』になっており、複数年度に分けて支払う装備も多いため、後年度負担が予算の硬直化を招いている」と分析。南日本も「契約の途中で米企業の都合で費用が跳ね上がったり、一方的な納入遅れが発生したりと、日本に不利な制度との批判は根強い」とした。

対中政策は外交で

 新防衛大綱は国内のコンピューター網を狙ったサイバー攻撃など新領域の防衛能力強化を掲げたが、山形は「(陸海空の各自衛隊の統合運用を進める)『多次元統合防衛力』にも疑問符が付く」と主張した。大分合同は「日本を取り巻く海と空での抑止に比重が移っているのに、陸自にこれだけの要員と予算を配分する必要があるのか。陸海空各自衛隊の縦割りに切り込む抜本的な改革こそ不可欠だ」と強調。読売も「防衛省は、陸上自衛隊の戦車部隊の削減を進めているが、十分とは言えない。自衛隊最大の陸自の任務を見直し、効率的に人員を配置する必要がある」と注文を付けた。

 こうした問題点を踏まえ、日経は「日本の安全を守っていくには、陸海空自衛隊の定員を含む組織の見直しと装備品調達の効率化を並行して進める必要がある」と説いた。山陰中央は「安倍政権では中国の軍事的な台頭に対応する必要性を説く声が強いが、その軍拡に合わせていれば、日本の防衛費は際限がなくなる。軍事力の差は外交の力で埋めていくべきだ」と唱え、西日本も「早く軍縮の流れをつくらなければ『防衛力を強化して国が衰える』などということになりかねない」と憂慮。信濃毎日は「戦争放棄、戦力不保持の平和憲法を持つ国として安保政策はどうあるべきか。今回、盛られた装備は本当に必要不可欠なのか。政府は詳しく説明する責任がある」とし、各党は「通常国会で厳しくたださなくてはならない」と締めくくった。   (審査室)

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