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2020年 7月14日
地元愚弄 甘い見通し露見
経緯検証し国民に説明を
河野太郎防衛相は6月15日、地上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明した。北朝鮮の弾道ミサイルに備え秋田・山口両県への配備を目指してきたが、迎撃ミサイルの技術的問題が判明。24日の国家安全保障会議で配備計画の断念を正式に決定した。日本の安全保障の根幹を揺るがす「停止」を巡る各社の社説・論説をまとめた。
まず、候補地・秋田県の反応だ。秋田魁は「これまで配備候補地周辺の安全性を強調してきたにもかかわらず、前言を撤回することは無責任極まりない。配備に大きな不安を抱き、反対運動を続けてきた地元住民をはじめとする県民の政府に対する信頼は根底から失われた」と批判した。
各社の論調も厳しい。主な見出しをみると「地元愚弄する導入ありき」(新潟)、「本気度疑うお粗末な経過」(陸奥)、「計画ずさん 当然の帰結だ」(徳島)など。政府が導入を閣議決定したのは2017年12月。配備計画が多くの問題を抱えていたことは、多くの社が見出しに「検証」という言葉を使ったことからもうかがえる。河北は「導入決定から停止までのプロセスを明らかにし、関係者に謝罪するよう求めたい」と主張した。
停止に至った理由や背景、米政権との関係、軍事的脅威などについて、各社の論調をみてみよう。
欠陥の指摘当初から
迎撃ミサイル発射後に切り離す推進装置「ブースター」を演習場内や海上に確実に落とせないという致命的な欠陥について、毎日は「落下地点を制御するのは技術的に極めて難しいという指摘は、当初からあった」とし、「甘い見通しのまま計画を推し進めてきた政府の責任は重い」と断じた。
朝日は「『安全に配備・運用できる』としてきた住民への説明は、いったい何だったのか。地元に理解を求める段階で、解決しておくべき課題であることは言うまでもない」と論じた。山陽も「演習場外に落ちて民家などに被害が及ばないか心配する声は、かねがね地元住民から上がっていた。防衛省側が安全性に〝太鼓判〟を押してきた根拠は何だったのか。あまりに無責任過ぎよう」と述べた。
政府と米政権の関係についても各社が問題視した。中日・東京は「トランプ米政権の購入圧力で新たに地上に配備しても巨費に見合う安全保障上の効果があるのか疑問視されていた」と指摘。京都は「安倍晋三首相がトランプ米大統領の要求に応じた米防衛装備品の『爆買い』の象徴とも言われた。『バイ・アメリカン(米国製品を買おう)』優先だったのではないかとの疑念は拭えない」、福井も「そもそも自衛隊内部からの取得要請はなく、貿易赤字を問題視するトランプ米大統領を喜ばせるための『爆買い』との見方が専らだった」と書いた。
費用については、西日本が「当初は1基800億円とされたが、その後上昇し、最近では維持運用費を含め総額約4500億円に膨らんでいた。あまりに見通しが甘かったのではないか」と訴えた。読売は「米政府を通じて最新鋭の装備を購入する対外有償軍事援助は、米国が価格決定の主導権を持っており、高額になりがちだ。政府は米国と粘り強く交渉し、調達費用の低減を目指さねばならない」と指摘した。
高まるミサイルの脅威
日本を取り巻く軍事的緊張が緩和されたわけではない。日経は「北朝鮮に核・ミサイル開発の断念を迫ってきた米朝交渉は膠着状態に陥っている。東アジアの安全保障環境は予断を許さず、ミサイル防衛体制の強化そのものは続ける必要がある」と強調する。信濃毎日は「北朝鮮は変則軌道を描く新型や潜水艦から発射できるミサイルを保有する。中国やロシアは極超音速ミサイルを開発している。いずれも迎撃は困難とされ、地上イージスを『無用の長物』と見なす専門家も少なくなかった」と論じた。
産経は「防衛体制全般の見直しも図るべきだ。中期防衛力整備計画に加え防衛計画の大綱を改定したらどうか」と提案。「北朝鮮などのミサイルの脅威は高まっている」と強調したうえで、「新たな知恵を絞り、予算をかけて北朝鮮と中国双方に対応できる自衛隊を持つべきだ」と論じた。
国会で議論すべきとの主張も複数社あった。静岡は「国会の会期末に公表した点も納得できない。巨額の兵器システムに対する方針変更は国会で審議すべき問題だ。導入の経緯も含めてしっかりと検証して国民に説明する必要がある」と訴えた。一方、 沖タイは「辺野古も白紙撤回せよ」との見出しをつけた社説を掲載。熊本日日も辺野古に触れ、「地上イージス見直しと同時に再考すべきである」と強調した。(審査室)