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2020年 11月10日
6人排除の理由説明を
批判の封殺なら看過できず
日本学術会議が新会員の任命拒否で揺れている。推薦した新会員105人のうち、99人しか任命されなかったからだ。任命権者は菅義偉首相。10月半ばまでの各社の社説・論説を読み解くと、6人を排除した理由について説明を求める声が強い。前政権以来続く、人事による批判封じ込めだとして問題視する社、学術会議の在り方を問う社もあった。
10月初めの紙面では厳しい論調が目立った。河北は「政府は直ちに方針を撤回するとともに、政権内でどのような検討を行い、排除の人選に至ったのかをつまびらかにすべきだ」と主張。南日本も「政権にとって耳の痛い批判を封じ込める強権発動だとすれば看過できない」と指摘している。
巧妙かつ陰湿
そもそもなぜ、この6人だったのか。毎日は「安全保障法制や『共謀罪』創設など、安倍晋三前政権の重要法案について批判的な意見を述べたという共通点がある」と推測。「学問の自由を脅かす、重大な政治介入である」と断じた。朝日も6人について同様な見方を示し、「健全な批判精神は学問の深化に不可欠であり、それを失った社会に発展は望めない」と論じた。
また、中日・東京は、学術会議が2017年に「『戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない』とした過去の声明を継承」したことにも触れた。中国も「政府が後押しする防衛分野の研究に背を向け続ける学術会議をけん制する狙いがあるのだろうか」と問い掛けた。
信濃毎日は、学術会議が「戦時下に学問研究が厳しく統制、弾圧され、科学が戦争に動員された反省を踏まえ」発足した歴史に触れ、「学問研究が権力の干渉や弾圧にさらされ、ゆがめられた歴史を繰り返すわけにはいかない」と抗議。神戸も「説明もなく一方的に通告することで、排除された側に『思い当たる節』はないかを考えさせ、暗に批判を封じようとする。巧妙かつ陰湿な手法」と指摘した。
北海道は「前政権は公正・中立性が求められる組織への人事介入を繰り返してきた」と振り返る。
山梨日日も「こんなところでも〝人事権〟を振りかざすとは」、新潟は「今回のような人事を許せば、国民不在のブラックボックスの中で政権の意向だけがまかり通ることになりかねない」と危惧した。
沖タイと琉球は地元ならではの視点で、名護市辺野古の新基地建設を巡り政府に抗議した学者が含まれていると指摘。「政権の意に沿わないから排除するというなら、学問の自由の侵害であり、憲法の否定である」(琉球)と論じた。
会議側にも改革促す
一方、産経は「学問の自由の侵害には当たらない」と主張。「任命権は菅義偉首相にあるのだから当然」と断じた。会員にならなければ自由な研究ができないわけではないとも指摘。「学術会議は、活動内容などを抜本的に改革すべき」と提言した。北國も「最終評価を首相が行い、人事権を行使することはむしろ当たり前」とし、「学術会議の在り方や会員選考の方法について改めて考え直す必要もあろう」との見解を述べた。
読売は「政府が十分に説明していないのは問題だ」とした上で、「学術会議のあり方も問われている」と問題提起。「会員の選考過程や、会議の運営が不透明だという指摘は多い」とし、改善を要望した。「科学の研究に『民生』と『軍事』の境界を設けるのは、無理がある。旧態依然とした発想を改めることも必要ではないか」との見方も示した。山陽は「学問の自由を脅かしかねない」と懸念しながら、「学術会議は、70年以上を経て、形骸化や情報公開不足を指摘する声があるのも確かだ」としている。
政府の説明を強く求める意見も多い。日経は「異例の決定に至った経緯と理由をきちんと説明すべきである」と主張。西日本も「任命を拒んだ理由をきちんと説明すべきだろう」とし、神奈川も「どういうプロセスを経て拒否という決定に至ったのか」を政府が明らかにする必要があると訴えた。愛媛は「説明責任の放棄は国民軽視とのそしりを免れず政治への信を揺るがすことになる」と指摘した。
下野、上毛、岐阜、山陰中央、佐賀などは、「学術会議は幾度も存続の危機に立たされてきた。それを乗り切ったのは、中立性の確保に向けて学者たちが努力し、政治の側も異論であれ専門家の意見を聞くことが重要だと認識していたからだろう」と振り返り、民主主義とは「一人一人がお互いを尊重し合い、自分の意見をぶつけ合って、より良い答えを探す過程」と説いた。
岩手日報は「戦前の天皇機関説事件など学問弾圧、異論排除の果てに日本はどうなったか。歴史に学ぶべきだ」と強調。「多様な専門的知見が政策に反映される枠組みを壊せば、国の未来を決める重大な選択も誤りかねない。任命拒否は誤りだ」と結んだ。(審査室)