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2021年 2月9日
強権化で挽回期すのか 新型コロナ関連法改正
罰則の感染抑止効果疑問
新型コロナウイルス対策を強化する改正特別措置法・感染症法が、自民党と立憲民主党の修正合意を経て成立した。改正法は、営業時間短縮命令を拒んだ事業者や入院拒否者への罰則を設けた。今まさに進行している問題への対応であり、全国民に影響が及ぶ可能性がある。各社の社説・論説は、感染拡大防止策の必要性は認めながらも、罰則導入は法理念に反するなどと厳しく批判し、効果についても疑問視する論調が多かった。
政府の対応遅れ批判
改正案を提出した菅政権に関して神奈川は「そもそも昨年の臨時国会を延長し、こうした改正法案の内容を詰めておくべきではなかったか。感染が急拡大するまで準備を怠ってきた政府・与党の責任は大きい」と指摘した。京都も「後手に回った対策への批判をかわし、権限強化で打開しようとする政府の思惑が透ける」と断じた。
罰則を導入する法改正について、毎日は「強制力や罰則に頼らない感染症対策からの大きな政策転換になる。社会のあり方に関わる重要な問題だ」とした上で、政府・与党の対応に「ずさんさが目立つ」と批判した。
中日・東京は「かつて感染症に直面した社会はハンセン病やエイズの患者、元患者へのいわれなき差別・偏見など著しい人権侵害を生んだ。感染症法が患者らの人権尊重を明記しているのも、その反省からだ」と振り返り、行政の指示に従わない者に刑事罰を科す発想は「人権を軽視し、法の理念に反する」と論じた。
中国も「国民の自由と権利に踏み込むのであれば、憲法との整合性を慎重に見定めなければならない。政府の甘い見通しや判断の遅れのツケを押し付け、制限を強めることは許されない」と危惧した。
一方、私権制限につながるとの批判に関し産経は「例えば憲法が保障する移動の自由に反するというが、憲法第22条1項には『公共の福祉に反しない限り』との条件がある。感染症との戦いは『公共の福祉』であり、法改正は認められる」と説明。「入院を拒む感染者への罰則は、当人に加え、他の人々の生命と健康を守るための合理的な措置といえる」と主張した。
罰則の効果、影響にも疑問が投げ掛けられた。北海道は「そもそも罰則が感染抑止に資するのかはっきりしない。政府は休業要請や入院を拒否した実数を把握しておらず、罰則導入の科学的な根拠を示していないからだ」と説いた。「公平な法の執行には課題も多い。飲食店は東京都内だけでも8万店を超す。命令違反の実態調査は極めて難しい」と指摘した。
西日本は「自治体による機動的な対策や疫学調査の促進は重要だ」との見解を示しながらも、「私権を制限する強権的手法が法的に許容される根拠(立法事実)は曖昧で、危うさを指摘する声も広がる」と記した。政府が具体的なデータを示さず、詳細な調査も実施していないと強調した。
政府は罰則導入の理由を「全国知事会からの要望」と説明した。これについて読売は「現場で指揮を執る知事は強い権限を求めているのだろうが、飲食店の数は多く、罰則を公正に適用するのは容易ではない。政府と自治体が連携し、感染症対策への信頼感を高め、事業者の理解を得ることが先決ではないか」と問題提起。「行き過ぎた法改正とならぬよう留意してほしい」と求めた。
立憲民主にも説明責任
こうした慎重意見や批判などの影響もあってか、自民、立民両党は法案修正について協議し、刑事罰の削除などで合意した。
これに関し日経は「感染の抑止に向けて国や自治体の判断の法的根拠を明確にし、一定の強制力をもたせる措置は必要だ」とした上で「政府・与党が罰則の軽減などを求める野党の要求を受け入れたのは妥当」と評価した。「国家的課題で今後も建設的な議論と幅広い合意をめざす良い前例にしてほしい」と期待した。
一方で河北は「修正協議は当初から『落としどころ』を探ったふしがある。協議は日程ありきで進み、不十分だ。改正案は感染におびえる国民の意識と乖離し、逆効果となる恐れがある」と懸念を示した。信濃毎日は「刑事罰削除だけで合意した立民党の姿勢も問われる。過料の導入も撤回すべきだ」と抗議した。
朝日も「行政罰であっても、違反者に罰を与えることに変わりはない」と指摘。保健師の団体が罰則導入に反対する声明で「強化すべきは感染者への支援であって、罰ありきの考えでは住民との信頼関係をもとにした保健所の対策を無にしかねない」と訴えていることに触れ、「立憲もまた、重い説明責任を負うことを自覚しなければならない」と結んだ。(審査室)