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2021年 3月9日
五輪精神に反する時代錯誤 森喜朗氏の女性蔑視発言
対応後手 甘い認識露呈
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)が2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「組織委にも女性がいるが、みんなわきまえている」などと述べた。謝罪と撤回では批判は収まらず、森氏は会長辞任に追い込まれた。各紙は本人や周囲のその後の対応を含め社説などで論じた。
透ける根回し体質
毎日は「人のふるまいを性別によって分類し、やゆした発言だ。性差別に当たり、看過できない」と批判した。沖タイも「『女は黙ってろ』と言っているに等しい時代錯誤の発言である。こうした価値観を持つ人に、『多様性と調和』をコンセプトとする東京五輪のリーダーは任せられない」と断じた。
日経は「活発に意見が出るならば、それはそれで大事なことだ。根回しやイエスマンだけの形式的な会議より、よほど健全といえる」と説いた。中日・東京は「森氏発言の根底にあるのは、事前の根回し通りに事を進めたいとの思考だろう」と指摘した。徳島は「『女性蔑視発言』とメディアは名付けたが、男性の側だって怒るべきだ。空気を読んで沈黙し、会議をさっさと終わらせる男ばかりではない。『性別で決めつけるな』と反論せずにはいられない」と批判した。北海道は「この場面でJOCの評議員から森氏をいさめたり、疑問を呈したりするなどの発言がなかった」ことを問題視した。
発言の影響について、河北は「五輪はボランティアの協力が欠かせない。東京大会には約8万人が必要とされる。組織委の『顔』として協力を呼び掛けるのが森氏だ。誰が快く応じたいと思うだろうか」と疑問を呈した。下野、日本海、山陰中央、佐賀、長崎などは「さまざまな世論調査で浮かび上がってきた国内の市民の全般的な反応は、コロナ対策に全力を傾けるべきで、この夏の開催には賛成できないというものだ。森氏の発言によって、東京五輪のイメージは傷ついた。それでなくても開催に懐疑的になっている市民は、組織委のトップに失望しているに違いない」とした。
神戸は「ツイッターでは『#わきまえない女』との検索目印(ハッシュタグ)が付いた投稿が拡散している。日本社会の在り方を問う議論を呼び起こしつつある」と指摘した。中国も「個人的な思い込みにすぎない森氏の発言が一連の男女共同参画推進の政策にブレーキをかけ、この分野での日本への国際的評価をさらに失墜させることになろう」と論じた。
森氏は発言の翌日、不適切だったとして撤回、謝罪した。産経は「森氏は誤解を生んだとして、4日に発言を撤回したが、問題の根本を分かっていない。世論が批判するのは、女性起用への森氏の認識に対してである。発言を『誤解』したからではない」とした。
京都は「五輪の理念を否定する発言は多言語で配信され、瞬く間に世界に広がった。新型コロナウイルスの感染拡大で開催が危ぶまれる中、自らの言動でさらに逆風を強めた森氏は辞任に値する」と断じた。秋田魁も「森氏の会長続投は日本の社会に対し、女性の社会参画の推進は優先度の低い課題との誤ったメッセージとなりかねない」とし、身を引くよう促した。
山梨日日は「菅義偉首相や関係閣僚らは、発言に問題があることを認めながらも、会長辞任を求める考えはないようだ。しがらみなどに縛られて踏み込めないなら、私たち国民が『わきまえず』に声を発するしかない。辞任に値する」と掲げた。西日本は「菅義偉首相は森氏の発言を『あってはならない』と述べた。それでは不十分だ。政府は今回の問題を教訓に、性別により理不尽な扱いをされない社会づくりを加速すべきだ」と注文した。
自浄作用働かず
批判はやまず、森氏は12日に辞意を表明した。川淵三郎・日本サッカー協会元会長に後を託そうとしたことも密室人事と批判され、川淵氏は後任を辞退した。
熊本日日は「結局、森氏の辞意表明は、外堀が埋められ高まる圧力に耐えられなくなったことによるもので、組織委や政府の自浄作用が働いたとは言えまい」と分析した。信濃毎日も「発言があった段階で、組織委が森氏の進退にけじめをつけるべきだった。組織委、政府、与党の女性差別に対する認識の甘さを国内外に露呈したといえる」との見解を示した。
読売は「菅首相は森氏の発言について『国益にとって芳しくない』と述べながら、進退にかかわろうとしなかった」と批判。朝日は「新聞・テレビやネットでも批判の声があがり、川淵新会長案は一晩で立ち消えになった。ただでさえコロナ禍で開催に暗雲が漂うなか、これでは五輪への共感を呼び起こすどころではない」と断じた。(審査室)