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2021年 4月6日
まちの再生 主役は住民 東日本大震災10年
コミュニティーの持続、発展を
死者・行方不明者2万2千人を超す「東日本大震災」は今年ちょうど10年の節目を迎えた。2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とする国内観測史上最大規模のマグニチュード9.0、最大震度7の地震が発生。岩手、宮城両県の沿岸部では高さ30メートルを超す大津波が押し寄せた。福島県の東京電力福島第一原発では炉心溶融事故が起きた。この10年、被災地では災害に強い新たな街が生まれる一方、原発事故の避難指示からいまだ帰還できない人々がいる。3月11日付の社説・論説を読み解いた。
各紙のテーマは「大津波」と「原発事故」に分かれた。津波被災地の宮城県に焦点を当てた朝日は、「まちづくりの主役はあくまで住民であり、国や自治体はそれを後ろで支えるのが役目だ。この10年の試行錯誤を社会全体で共有して将来につなげたい」と論じた。石巻市を訪ねたという信濃毎日は「集落や住民を散り散りにした『復興』によって、分かち合う関係性が損なわれてはならない。暮らしの根を張り直す被災地の再生は、これからになる」と現状を伝えた。
デーリー東北は「復興は道半ば。結びつきを保っていきたい。そして、記憶を語り継ぐことも、震災後の今と未来をつなぐ大切な絆である」と思いをつづった。岩手日報も「安心して悲しめる居場所をつくり、そこで切れ切れの言葉が結ばれ、自ら語り出す時を待ちたい。確かに『語り継ぐ』ために」と心情を表した。
被災3県の首長への調査結果を載せた河北は宮城、岩手両県と福島県の復興格差が顕著だと分析。その上で「産業や住民自治の新たな可能性を見いだし、コミュニティーを持続、発展させたい」と記した。
原発事故を巡っては、北海道が「誠実に向き合い、原発に依存しない将来像を明確に描くべきだ」と主張。西日本は「エネルギーの原発回帰には積み残しの課題が多すぎる。政府に決断を迫る国民の『覚悟』が問われている」と強調した。毎日は原発事故について、地方に負担を強いる大都市のあり方にも疑問を投げ掛けたと指摘。「福島だけの問題ではない」と訴えた。中日・東京は大江健三郎の著作に引用された中国新聞論説委員の言葉になぞらえ「原発は威力として知られたか。人間的悲惨として知られたか。私たちは何を伝えていくべきなのか――」と問い掛けた。
避難区域の解消課題
一方、北國は「廃炉が進まぬなか、福島県を苦しめるのは、放射能をめぐる風評被害である」と断じた。産経は「福島の復興を妨げている風評被害の根絶は、最も重要な課題の一つ」との見方を示した。
地元2紙は決意を新たにする。
福島民報は「『3・11』以前より豊かさを実感できる社会を作り上げる『創造的復興』を成し遂げ、全国の手本となるための新たなスタートとしたい」と表明。福島民友も「帰還困難区域にどう光を当てていくかが、これからの大きな課題」とした上で、「『復興』という言葉を意識しなくなったときが復興の達成」と力を込めた。
今後予想される災害の被害想定に引きつけた論も多かった。南海トラフ地震、首都直下地震に触れた日経は「世界にもまれな災害大国という現実を受け止める」「自助と共助に重きをおいて減災を進めるしかない」と呼び掛けた。
特に南海トラフ地震について、愛媛は「命を守り災害に強い地域、社会をつくっていく。その努力に終わりがないことを改めて胸に刻みたい」とした。岐阜も県内の被害想定を挙げて注意喚起、「身近なところから優先度を考慮して備えていく必要がある」と主張した。
「事前復興」に着目
高知は「3・11は価値観の転換点になった」とし、「被災後の街をどうするかを前もって考える『事前復興計画』」に触れ、「『その日』に備えなければならない」と訴えた。
読売も「『事前復興』の取り組みが重要」とし、「国が事業の先頭に立つのは当然だが、理想を追い求めるあまり、住民を置き去りにしては、再生はおぼつかない。地域の声に耳を傾けながら進めることが重要だ」と論じた。
過去の被災体験を振り返る論も。神戸は、阪神・淡路大震災の経験を基に「復興は地元が中心にならないと失敗する」と指摘。市民が主体となり復興計画をまとめたことを紹介し「全てが政策に反映されたわけではないが、被災者の視点から目標の共有と復興の検証を可能にする」と訴えた。長崎は雲仙・普賢岳噴火災害に触れ、「数々の自然災害や原爆被害を経験した本県だからこそ、被災地に『心のエール』を送り続けたい」と決意した。新潟は「10年前の教訓を一人一人が自分のこととして受け止めたい」と記した。京都は「災害からどう立ち直るか。その議論をさらに深める時だ」と提言した。(審査室)