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2022年 4月12日
米欧と連携し制裁継続を 北方領土交渉中断
中長期の戦略再考も必要
ウクライナに侵攻したロシアに対し、日本は国際社会と協調して制裁を科した。ロシアはこれに反発し、日本を「非友好国」に指定。平和条約締結交渉の拒否、北方領土への「ビザなし交流」の廃止、両国の官民が出資する共同経済活動協議の放棄などを決めたと通告してきた。各紙の社説・論説は、こうした一方的な決定を批判し、日本がひるむことなく圧力をかけ続けることの重要性を訴えた。
ロシアの責任転嫁批判
北海道は「ウクライナ侵攻は国際秩序を脅かす暴挙だ。全く正当性はない。経済制裁は国際社会の意志であり、日本に責任転嫁して2国間交渉を拒否するのは、筋違いも甚だしい」とロシアの対応を批判した。沖タイも「主権国家を一方的に侵略し、制裁されたら領土問題を報復材料に使う外交姿勢は、あまりにも乱暴だ」とした。
中国は「明らかな逆恨みだが、冷静に受け止めたい。領土問題では譲歩しないロシアの本音が表に出ただけだからだ」と指摘した。
複数紙が、引き続き国際社会と連携する重要性を説いた。読売は「日本の対応を理由にしたのは口実で、日本と米欧などを離間させて制裁の効果を弱めたいという思惑があろう。政府は動じることなく、ロシアに侵略の代償を払わせるため、国際社会と連携を強めていく必要がある」と主張した。
南日本も「日本政府はロシアとの交渉継続を模索すべきだが、再開のために制裁を緩めることがあってはならない。侵攻停止に向けて米欧と歩調を合わせた外交を求めたい」と訴えた。
新潟は、2014年のロシアによるウクライナ・クリミア半島併合を巡る日本政府の対応を振り返り、「中途半端な態度は、人道問題や国際法違反に甘い国だと受け取られ、制裁を強める国際社会に誤った印象を与える恐れもある」とした。その上で「政府は毅然(きぜん)と対応し、国際社会の一員としての責任を果たしてもらいたい」と強調した。
そもそも、ロシアがウクライナに侵攻した時点で、交渉継続は無理だったと指摘した社もある。朝日は「侵略戦争を始めたロシアの現政権には、国際法や合意を守る意思はない。平和条約を話し合う意義はすでに失われていた。むしろ、日本側から交渉中断を表明しておくべきだった」と主張した。河北も「破壊と殺りくをやめない国に冷静な協議を期待すること自体、現実的ではない。ロシアによる対日平和条約締結交渉の中断は極めて残念であるが、予想された事態だ」とした。
過去の協議検証求める
交渉中断を受け、日本政府に対し、この機会にこれまでの交渉の検証を求める主張も多い。毎日は「とりわけ問題を残したのは、安倍晋三元首相時代の交渉だ」とし、「長らく日本が求めてきた四島返還の方針をなし崩し的に転換し、『2島』にかじを切った。加えて『北方領土はわが国固有の領土』『旧ソ連による不法占拠』という従来の主張まで封印して露側の妥協を引き出そうとした。『力による支配』を容認したと国際社会に受け取られかねない譲歩だった」と指摘した。
高知も「安倍晋三元首相は首脳会談を重ね、プーチン氏との個人的信頼関係を演出したが、翻弄(ほんろう)された印象は拭えない。他国に侵攻する指導者を相手に、領土交渉の実現性を見誤ったのではないか」と分析した。
22年度予算には安倍氏が主導した経済協力の関連経費21億円が計上された。ロシア経済分野協力担当相は萩生田光一経済産業相が兼務している。徳島は「制裁を科す一方で経済協力も打ち出すのは、矛盾していないか。遠い将来を見据えた対応との見方もあるが、圧力を強める国際社会に誤ったメッセージを与えかねない。再考すべきだ」と訴えた。
一方、静岡は「年老いた元島民の墓参が難しくなるのはしのびない。住民交流の停滞も残念だ。こちらこそ人道の観点から継続の道を探ってほしい」とし、旧島民らによるビザなし交流の早期再開を働き掛けるよう求めた。
信濃毎日は「極東でロシア軍が活動を強めている。政府はまず、両国の冷え込みが漁船の拿捕(だほ)に飛び火しないよう強く要請しておくべきだ」と主張した。
日本政府の今後の取り組みについて、日経は「両国に平和条約がないことが異常な状態であることは確かだ。中長期的な対ロシア戦略の練り直しなど怠らずに進めたい」と注文を付けた。
北國は「領土・平和条約交渉の進展は、プーチン政権の交代などロシア政治の大きな変化を待つほかないのではないか」と指摘した。産経も「プーチン氏が永久にロシアを支配するわけではない。プーチン後を見据え、北方四島を取り戻す機会を狙えばよい」とした。(審査室)