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2022年 7月12日
格差是正に向け法改正を 衆院区割り 「10増10減」勧告
地方の声 国政への反映課題
政府の衆院選挙区画定審議会(区割り審)は6月16日、小選挙区定数の「10増10減」を柱とした新区割り案を岸田文雄首相に勧告した。改定対象は25都道府県の140選挙区で過去最多となる。各紙の社説・論説は、1票の格差是正のため勧告に基づき関連法を改正すべきだとの論調でほぼそろった。人口比に基づき議員定数を配分する「アダムズ方式」の導入を巡っては疑問を呈する意見が多く、選挙制度の抜本的な見直しを求める主張も少なくなかった。
透ける党利党略にくぎ
細田博之衆院議長が「地方いじめ」と批判、自民党内には勧告への反対論がある。北海道は定数が減る県には「有力議員がひしめく。厳しい候補者調整を避ける党利党略が透ける」と指摘した。
アダムズ方式は2016年、自民、公明両党の議員の提案によって導入が決まった。朝日はこの経緯に触れ「自分たちが決めたルールを、党利党略でひっくり返そうというのなら、許される話ではない」とくぎを刺した。いずれも首相が指導力を発揮して勧告に沿った法案を提出するよう求めた。産経も「速やかに改正し、次期衆院選で確実に実施しなければならない」と迫った。
毎日は、17年にも97選挙区の区割り変更があったため「繰り返される見直しに戸惑う人は多いだろう。十分な周知期間を確保しなければならない」と注文を付けた。中国も「格差是正の意義と新区割りの周知を徹底し、積極的な投票権行使につなげたい」と促した。
勧告では、東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知の5都県で計10議席増え、宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の10県で各1議席減る。
愛媛は「県民の代表者がさらに減り、地方の声が国政に届きにくくなることは避けられない」と危惧。河北も「東日本大震災の被災地を抱える宮城、福島も例外なく1減となった。地方の有権者が選挙制度のひずみに翻弄されていると感じるのは当然だ」と記した。
新潟は「都市部の議員だけが増えるのでは、高齢化や過疎化といった地方にとってより深刻な課題の解決が遠のかないか」と疑念を示した。千葉も「都市への議席集中は明らかで、地方の懸念はもっとも」だと書いた。
新たな区割りにより、引き継がれてきた地域の一体性が失われるとの指摘もある。福島民報は「単なる数合わせで境界を決めてはならない。地域の一体性を考慮すべきだ」との関係市町村長の声を紹介した。宇部は「投票価値の平等を守るためとはいえ、地域の一体性が犠牲にされるのは本来許し難いことだ」とし、新区割りは議席配分調整のための数合わせだと断じた。
勧告は、複数の選挙区にまたがる分割市区町を現行の105から32に減らすよう求めた。日経は分割市区町の減少に全面的には賛同できないと表明。改定後の1票の格差が1・99倍で、人口移動で再び2倍を超える可能性が大きいとし「もっと1倍に近づける考え方があってしかるべきだ」と主張した。
京都と山陽は、人口推計をアダムズ方式に当てはめると、今回1減となる岡山、滋賀両県は30年の国勢調査で1増となり定数が戻ると指摘。区割りの頻繁な変更は混乱が大きいと懸念を示した。長崎や南日本は、議席減となる地方への対策として「各ブロック比例代表名簿の上位に、定数が削減された県の候補を優先的に並べる案」などの検討を促した。
選挙制度の抜本改革必要
北國は、最高裁が投票価値の平等を選挙制度の仕組みを決める絶対の基準とせず、国会の裁量も認める判断を示していると説明。投票価値の平等と、国政への民意の的確な反映を調和させるため「国会はより良い選挙制度を絶えず考えなければならない」と訴えた。
読売も人口比では日本の国会議員数は欧州などより少ないとし、「議員定数を増やすことも含め、新しい選挙制度のあり方を根本から検討する時期に来ているのではないか」と結んだ。
神戸は「民意をより正確に反映する抜本的な選挙制度改革の議論に踏み込む時ではないか」と問い掛けた。参院に地方の声や少数意見を反映する仕組みを取り入れるなど、二院制の特性を生かす視点も必要だと考察した。
福島民友は、都道府県単位を選挙区とする参院を1票の格差にとらわれない地域代表と位置付ける案を紹介。優越的な権限を持つ衆院と役割を分担するなど「まずは参院改革の議論を進めてはどうか」と記した。
中日・東京は、6月に閉幕した通常国会で、10増10減案を批判した細田議長の言動が原因で衆院選挙制度を巡る与野党協議会が開かれなかったと指摘。選挙制度改革に向け「国会の体制刷新も必要となる」とした。(審査室)