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2022年 8月9日
民主主義守る意志示す 安倍元首相銃撃直後の参院選
自民大勝 丁寧な国会運営要求
「民主主義とは何か。深く考えながら過ごした一日ではなかったか」(福島民報)――。応援演説中の安倍晋三元首相が銃で殺害された2日後の7月10日に投開票された第26回参院選。各紙は投開票翌日付の社説・論説で、どんなメッセージを、いかに冷静に読者に届けるべきかと思いを巡らせた。
多くの社が選挙中の凶弾の影響を憂慮。「きのう託された1票には真の民主政治を守ろうという願いも込められていよう」(岐阜)、「戦後日本が大切にしてきた民主主義を守る」(河北)、「民主主義の破壊は許さない」(新潟)など強い思いを表明した。「暴力で自由な言論が封殺され、民主主義が重大な挑戦を受ける異例の状況」(毎日)、「民主主義への許されざる挑戦」(産経)だとし、「『民主主義の危機』を目の当たりにする」(中日・東京)中での選挙だったと捉えた。読売は「負託を受けた議員は、民主主義の大切さをかみしめて」と訴えた。
多様な意見の尊重必要
朝日は民主主義が「言論や表現の自由のうえに、多様な意見の存在を認め、丁寧な話し合いを通じて合意をめざす地道な努力に支えられている」とした。日経も「民主主義国でも格差を背景にした分断の深刻化で不寛容がはびこる」からこそ「多様な意見を尊重しながら、話し合いで一致点を見いだしていく努力が一段と重要」だと論じた。佐賀も「少数派が意見を述べる機会が担保され」「一つ一つの意見に丁寧に説明責任を果たす」過程こそが「真の民主主義」だと政府の今後の姿勢に注文を付けた。
与党、特に自民の大勝を巡り、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻に加え銃撃事件が起きたことで、有権者が「政治の安定を期待したのではないか」(読売)、物価高などにより「国民の募る不安、政治の安定を求める思いの高まりが、与党有利に働いた」(長崎)、岸田政権の「実績が一定の評価を得た」(日刊工業)などの見方が挙がった。一方、中国は「政策全てへの白紙委任を得たわけではない」とくぎを刺した。愛媛も投票率の低さを指摘した上で「数におごらず、丁寧かつ謙虚な国会運営」を求めた。
福島民友は銃撃事件について「少なくとも選挙戦に影響した」とみる。北國は「弔う声なき声は自民党への『追い風』」になったと指摘。山梨日日は「情緒に流され、個人の死を政治利用するような雰囲気」への懸念を示した。
静岡は「政権交代可能な二大政党制の実現」が「限界をさらけ出している」と論じた。北日本は「権力は腐敗する」とした上で「緊張感を持たせる」ために「強い野党が欠かせない」と、野党に奮起を促した。山形などは、与党のペースで国会運営が進む傾向が強まり過ぎると「国会の形骸化を招き、少数意見が顧みられなくなる恐れがある」と警鐘を鳴らした。
大きな争点は「物価高対策を中心とした経済政策」(神戸)であり、有権者が「物価高・経済政策、年金・医療など『暮らし』を重視」(中日・東京)したとの見方が多い。秋田魁は選挙戦で「対策の議論が深まらなかったのは残念」だと記した。陸奥は勝った自民の公約も「新味に欠けた印象」だと分析。信濃毎日はコロナ禍の長期化が「深刻な格差を浮き彫りにした」ものの「『分配』が機能していない」とし、与野党とも「暮らしの現場にもっと目を向けてほしい」と要望した。デーリー東北は「人口減少、中央と地方の格差是正といった地方の重要なテーマが埋没した」とした。宮崎日日も「痛みが凝縮している地方の現状に耳を傾ける政治」は行われるのかと問い掛けた。
拙速な改憲論議懸念
安全保障、防衛問題への関心が高まる中、改憲志向の4党で発議に必要な3分の2超の議席を占めたことに多くの社が注目した。産経は「岸田首相は安倍氏の遺志を継ぎ、不退転の覚悟で」「改正をやり遂げるとき」だと強調した。山陽は「改正が一段と現実味を帯びている」とした上で「国民的な議論と理解が欠かせない」と指摘。「熟議を通じて丁寧に合意を積み上げねばならない」と注文を付けた。北國は安倍氏の死去が「どう響くか。改憲の道は依然として険しく、遠いままだろう」と見立てた。
一方、北海道は「選挙戦で首相はほとんど改憲に触れておらず、その是非が争点になったとは言い難い」と主張。世論調査で賛否が拮抗(きっこう)しているとし、熟議を尽くすよう求めた。岩手日報も「国民の理解は成熟からは遠い」とし「拙速な議論は厳に慎むべき」だと訴えた。神奈川は「弔いムードに乗じて拙速に進めるようなことは許されまい」と警戒し、福井も「ムードによる拙速な改憲論議」を懸念した。こうした中、米軍新基地建設に反対する「オール沖縄」の支援候補の当選を巡り、地元2紙は「平和の民意」(沖タイ)、「新基地反対を選択」(琉球)と見出しで強調した。(審査室)