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2022年 10月11日
社会分断 首相の責任問う 安倍元首相の国葬
実施の手続き整備不可欠
安倍晋三元首相の国葬が9月27日に行われた。安倍氏が非業の死を遂げたこともあり、世論は当初、国葬に賛意を示す意見が多かった。だが、安倍氏の事件をきっかけに宗教団体・世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の不透明な関係が次々と明るみに出ると、反対する声は日を追って多くなり、賛否が割れたまま当日を迎えた。各紙の社説・論説は、多くが社会の分断を招いた岸田文雄首相の責任を問い、国葬決定の手続きや決定後の対応を批判した。
独断は「民主主義軽視」
新潟は「首相が独断で決めた国葬が浮き彫りにしたのは、国民から大きく乖離(かいり)した政治と、分断された社会の姿にほかならない」と指摘。各社の世論調査で反対が賛成を上回る状況を招いたのは「国葬とすることについて、岸田首相から納得できる説明が聞かれなかったことが大きい」とし、首相の説明不足を社会分断の要因に挙げた。
毎日は国葬決定の手続きを巡り、「首相は『暴力に屈せず、民主主義を守る』と言いながら、国会に諮らず、閣議決定だけで実施を決めた。議会制民主主義のルールを軽視し、行政権を乱用したと言われても仕方がない」と批判した。
日経は、野党の一部が参列を見送った点に触れ、「国葬は費用を全額国費で賄う。国会で説明を尽くし、多くの党から理解を得るのが望ましかったはずだ」と指摘した。読売も「政府は早い段階で国会で説明するなど、策を尽くすべきだった」とした。
山梨日日は「そもそも、なぜ国葬だったのか。背景には国民への目線ではなく、安倍氏の遺志継承を明確にすることで党内保守層にアピールしようとの、一部勢力への目配りがあったのではないか」と疑問を呈した。
批判は旧統一教会への対応にも向けられた。河北は「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題では、多くの国民が首相の対応に失望している」とし、「安倍氏は岸信介元首相以来3代にわたって教団と密接な関係を保ち続けてきた。所属議員の不誠実な対応は、安倍氏の責任を明らかにしないまま国葬に踏み切ったことと無関係ではあるまい」と断じた。
信濃毎日も「首相は、安倍氏と教団との関係の調査を、亡くなっていることで『限界がある』として着手すらしない。うやむやのまま、疑念を抱えながらの国葬に、心からの納得が得られるはずもなかった」と主張した。
また、実施の是非を含め、国葬に対するさまざまな注文も相次いだ。北日本は「大正末期に制定された『国葬令』は戦後に失効し、対象者や実施要領を定めた法令はない。今の時代になじむのか、どんな手続きを踏むべきか。時の政権が恣意(しい)的に判断しないよう、国会関与の在り方や基準作りを検討してもらいたい」とした。
沖タイも同様に、「今後の国葬が政権の都合で行われたとみられないためにも、この国会でのルール作りは不可欠だ」と訴えた。さらに、「国葬を実施する対象や条件を明示し、事前に国会の承認を必要とするなど、プロセスを明示することが根拠の一つとなる」と論じた。山陽は「国葬を断行した首相自らが基準の明確化を主導すべきだろう」と要望した。
一方、神戸はこうした主張とは距離を置き、「対象者や開催基準を規定するのは難しい。国葬という形式そのものが法の下の平等や民主主義とは相いれないのではないか」と今後の国葬実施に疑問を投げ掛けた。琉球は「立憲主義や国民主権など、戦後の日本が追求してきた民主主義の理念にも反する」と国葬を否定的に捉えた。
西日本は「今日の社会に合った葬儀を模索し『政治の知恵』を積み重ねた結果が合同葬だったはずだ」とし、「国葬を是とするなら、法的根拠や手続きをあらかじめ整えることが欠かせない。それができない限り、3度目はないということだ」と戒めた。
弔意と評価 混同するな
産経は「日本の国として、功績のあった故人を、真心込めて送ることができて本当に良かった」と国葬を評価した。また、安倍氏が国葬に値する政治家だったか否かに触れた社も少なからずあった。北國は「国葬に対する反対は多くても、国葬に値する政治家か否かを問えば、イエスと答える国民は多いのではないか」と強調した。
朝日は安倍氏に対し賛否両論がある中で「憲政史上最長の8年8カ月、首相の座にあったのは事実だが、その業績への賛否は分かれ、評価は定まっていない」とした。北海道も「安倍氏を特別扱いすることに疑問を抱く国民も多い」と評した上で「首相経験者の葬儀で、これほど国論の二分する中で実施された例があっただろうか」と指摘した。
中国は「故人への弔意を示すことと、首相としての評価を混同してはなるまい」と訴えた。(審査室)