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2023年 3月14日
緩和策 検証と修正必要 日銀の総裁人事と金融政策

黒田路線に厳しい総括も

 政府は2月14日、次期日銀総裁候補に経済学者の植田和男氏を充てる人事案を国会に提示した。植田氏は4月9日に就任する。日銀はこの10年、黒田東彦総裁の下で大規模緩和策を続けてきた。昨年春からの世界的なインフレで米欧が金融引き締めに動く中、日銀は緩和を維持したことにより歴史的な円安と物価高を招くなど、「副作用」が顕著となっている。各紙は社説・論説で植田氏に対し、市場や国民との丁寧な対話に努め、金融政策の正常化を探るよう求めた。

植田氏起用は「妥当」

 任命されれば初の経済学者出身の総裁となる植田氏の起用について、各紙ともおおむね好意的だった。日経は「金融政策の理論と実務に精通した人物で妥当な人選だ」と評価。「知見を生かして経済の安定をはかりつつ、ほろこびの目立つ緩和策の点検・見直しも丁寧にさぐってほしい」と注文を付けた。

 西日本は、24、27日の国会による植田氏への所信聴取を受け、「安全運転に徹した印象はあるものの、国会議員の質疑への対応は不安を感じさせなかった」とした。徳島は、植田氏が日銀審議委員を務めていた経歴に触れ、「非伝統的手法の導入・解除に立ち会った植田氏なら黒田流10年の功罪を読み解けるはずだ」と期待を示した。

 人事案は副総裁に日銀理事の内田真一氏と前金融庁長官の氷見野良三氏を充てている。新潟は「学者出身の総裁を、実務に詳しい日銀と財務省出身者で支え、安定感を重視した布陣だろう」と評価した。朝日も「一定のバランスが感じられる布陣ではある」と肯定的に捉えた。

 黒田氏の大規模緩和策を巡り、読売は「円高が是正され、輸出企業を中心に業績が改善して、株価の上昇や失業率の低下につながった。日本経済に一定の安定をもたらしたことは評価できる」とした。中部経済も「黒田バズーカにより、ドル円レートは円安基調に変わり、企業収益が拡大、就業者数も増えた」と成果に言及した。

 一方、厳しい総括も多かった。熊本日日は「黒田氏が推進した大規模な金融緩和は日本経済を下支えしたが、物価目標は達成できず、財政規律が緩むなど多くの弊害をもたらした」と指摘した。「アベノミクスの看板政策となった異次元緩和は、市井の人々よりも政権や与党、大企業を向いていた」と結論付けた。中国も「アベノミクスと一体となった大規模緩和が政権や大企業の方を向いた政策だった点は否めない。徐々に行き渡るとされたトリクルダウンも起きなかった」との見方を示した。

 批判は黒田氏個人にも向けられた。神戸は「昨年末には物価高に追い込まれる形で事実上の利上げに踏み切りながら、黒田総裁は『利上げではない』と強調した。市場の反発や混乱は今も尾を引く。緩和策の弊害はあまりに大きいと言わざるを得ない」と断じた。京都も「黒田氏は当初、『バズーカ』と呼ばれた大胆で意外性ある打ち出し方で高い政策効果を狙ったが、自らの発言に縛られた強弁を続け、市場の疑心暗鬼も招いた」と論じた。

市民への丁寧な説明課題

 植田氏は、これまでの大規模緩和策とどう向き合い、金融政策のかじ取りをすべきか。北海道は「異次元緩和の負の側面から目を背けず、その検証と経済状況に応じた修正に着実に取り組むことが肝要となろう」と主張した。

 中日・東京は「日銀は一三年、当時の安倍政権と金融緩和を推進する政策協定を結んだ。黒田総裁はかたくなに協定を守る一方、物価高への対応は後手に回った。政権と日銀の連携は否定しないが金融政策の手足を縛る協定なら見直しが必要だ」と政府と日銀双方に対応を迫った。

 信濃毎日は「喫緊の課題は、長期金利の上昇圧力にどう対応するかだろう。欧米との金利差が広がり、金利を抑え込むための日銀の国債大量購入が『持続不可能』とみる外国人投資家を中心に、国債の売りを仕かける場面が目立っている」とした。

 秋田魁は、日銀の国債買い入れにより「低金利が続いてきたため、政府は利払い負担への危機感を失っているとしか思えない」とした。その上で、大規模緩和の修正策として挙がる長期金利上限の一段の引き上げや撤廃は、「金利上昇につながる。住宅ローンや企業の借り入れ金利の上昇による景気失速が懸念されるほか、国債の利払い費増加による国の財政悪化の恐れもある」と指摘。慎重に進めるよう求めた。日刊工業も「植田氏が当面、現状の金融緩和継続を支持したのは適切な判断だ」とした。

 毎日は修正に際して、「政策の狙いを市場や国民に丁寧に説明することも大きな課題だ」とした。産経も「大事なことはサプライズではなく市場との真摯な対話である」と訴えた。(審査室)

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