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2023年 4月11日
連帯と支援の表明評価 岸田首相のウクライナ訪問
武器供与への拡大を危惧
岸田文雄首相が3月21日、ロシアの攻撃にさらされるウクライナを訪問した。「日本の首相が戦時下の国・地域を訪れるのは第2次世界大戦後で初めて」(日経)だ。日本の外交・安保における「新たな一歩とも言える」(北國)画期的な出来事となった。
政権浮揚の思惑指摘
5月の先進7か国(G7)広島サミットでは、岸田首相が議長を務める。今回の首脳会談で合意したウクライナのゼレンスキー大統領のオンライン参加を含め、ウクライナ情勢が主要な議題となるだけに、「サミット前に自らも訪問して議論を主導する狙い」(北海道)があったことは確かだろう。
国連事務総長や欧米諸国首脳の後塵(こうじん)を拝したが、訪問自体には賛意を示す論調がほとんどだった。「出遅れ感はさておき、揺るぎない連帯と継続支援を直接伝え」(岩手日報)、「G7すべての首脳がウクライナの地を踏んだ意義は大きい」(日刊工業)とみる。愛媛は「統一地方選や衆参5補欠選挙を前に政権浮揚の思惑がうかがえる」と分析しつつ「重い決断」だったと評した。
岸田首相はゼレンスキー大統領との会談に先立ち、首都キーウ近郊のブチャを訪問。ロシア軍に虐殺された市民らに献花し、住民から話を聞いた。帰国後の記者会見でもブチャ虐殺を「惨劇」と呼び、ウクライナへの攻撃を「国際秩序の根幹を揺るがす暴挙」と強く非難した。読売は首相会見を引用した上で「ロシアの侵略がもたらした悲劇を肌で感じた意味は大きいはずだ。ウクライナへの連帯をどう国際社会に広げていくか」が今後の課題だと指摘した。
「グローバルサウス」と呼ばれる新興国、発展途上国の多くは、対ロシア制裁に参加していない。秋田魁は「こうした国々への働きかけも必要だろう」と記した。
ウクライナ訪問を批判する社もあった。琉球は「中立を保っている国々は日本の行動とは距離を置く可能性がある」「ウクライナ訪問が日本の外交姿勢として望ましいのか疑問が残る」と論じた。神奈川は「岸田外交の浅薄さ、ちぐはぐ感」を指摘した。
日経の解説記事は「残る論点」として、G7サミットなどでの国際社会に向けた発信に加え、軍事支援の可否、安全確保の難しさを挙げた。ウクライナは、日本を含む西側諸国が提供する資金や物資、兵器を命綱として国民生活と抗戦を支えている。岸田首相は今回、エネルギーなど民生分野への支援と殺傷能力のない装備品の提供を約束した。毎日は、日本がこれまでに提供したのは防弾チョッキなどに限られるとして、防衛装備移転三原則を「なし崩しにすべきではない」とけん制した。西日本は、政府・与党内で「日本も殺傷能力のある武器を輸出できるようにすべきだとの意見が出ていることを危惧する」とした。
対ウクライナ支援は現状維持を求める社説が目立った。一方、産経は「侵略者撃退」のためには「殺傷力のある装備の供与も選択肢に入れるのが望ましい」と対照的な意見を示した。
安全確保 議論求める
岸田首相のウクライナ訪問は昨年から数度検討されたが、安全上の理由で見送られてきた。今回は岸田首相がポーランドからウクライナに向かう時点で報道されたものの、準備は秘密裏に進められた。
キーウはロシア軍の占領を防いだ後もミサイルや無人機の攻撃を受けている。朝日は帰国後の国会での説明は必要とした上で、「安全の確保に万全を期すのは容易ではない。困難を乗り越え、訪問を実現したことは率直に評価」した。国会訪問中にウクライナを訪問する場合の事前了承には「野党からもこだわらない意向が示されていた」と政界の空気を伝えた。
外国要人のウクライナ訪問では、迎えるゼレンスキー大統領らも含めて標的になるリスクがある。中国は、「要人警護のために自衛隊を海外派遣する法規定はない」こともあり、ウクライナ側が安全確保の責任を負ったと指摘。訪問は無事終わったものの「今後のためにも結果オーライではなく、さまざまな視点から議論しておく必要がある」と注文を付けた。
日ウ首脳会談と同日、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が会談した。これには批判的な社説が目立った。京都は中国の和平提案がロシア軍の撤退を含まないとして「長期戦に協力許されぬ」との見出しで苦言を呈した。
日本政府に停戦・終戦の努力を求める社説も多い。どのような形で戦闘を停止するか―。ゼレンスキー大統領は読売のインタビューで、中国の和平案を巡り「主権と領土の一体性の尊重が先だ」と主張。ロシア軍撤退なき紛争の「凍結」は、占領地での虐殺や将来の侵略再開につながると警戒感を示した。(審査室)