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2023年 6月13日
核廃絶の議論「物足りず」 G7広島サミット

ウクライナ和平 外交努力必要

 被爆地広島で初めて開かれた5月の先進7か国首脳会議(G7広島サミット)を巡り、多くの社が社説・論説を複数回掲載した。各社はG7首脳らが原爆資料館などで被爆の実相に触れた意義を認めたが、共同文書「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」には批判が多かった。ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領の参加を肯定的に評価する一方、ウクライナ支援中心の議論となったことへの懸念も目立った。

「日本が先頭に」と注文

 地元紙の中国は広島ビジョンについて、「被爆地から『核兵器のない世界』を目指すメッセージを発信する意義は大きい」としながら、「内容は極めて物足りない」「多くの原爆死没者が眠る広島の地名を冠するにふさわしいとは思えない」「核兵器禁止条約に触れていないことは許しがたい」などと批判。岸田文雄首相が「保有国と非保有国の橋渡し役」を強調するならば、同条約第2回締約国会議にオブザーバー参加すべきだと求めた。

 長崎も、G7首脳が「原爆の惨禍に思いを致したことは歴史的であり、核使用を決して許さないというメッセージになった」とした上で、「岸田文雄首相は厳しい現実を理想に近づけると言う。ならば、もっと踏み込んで行動してほしい。日本がG7の先頭に立ってこそ核廃絶の歯車が動く」と注文を付けた。バイデン米大統領の長崎訪問も要望した。西日本は「次の日本開催のサミットは最後の被爆地・長崎」で開くことを提案した。

 広島ビジョンについては、朝日も「広島・長崎の思いに応えたとは、とても言えない」「核廃絶への長期的な視点を欠く文書は、被爆地の名を冠したビジョンと呼ぶに値しない」と断じた。神奈川は「核抑止論に固執する独善的な考えを被爆地で示したことは、被爆者を愚弄する」と指摘。河北も「広島、長崎の願いに反するだけでなく、90を超える核兵器禁止条約署名国との分断を招くことになりかねない」と危惧した。信濃毎日は「被爆者が求めたのは、首脳らの資料館訪問という『慰撫』ではない。核廃絶に向けた実践であるのを忘れてはならない」と書いた。

 熊本日日は、ロシア以外の核保有国に対する議論が物足りなかったとし「多くの犠牲者が眠る広島の地で、核抑止論に基づく安全保障体系との決別を誓ってほしかった」、琉球も「サミット全体のトーンは核廃絶とは程遠く、世界の分断、対立の深さが際立ち、軍事色が濃かった」と振り返った。

 一方、秋田魁は「原爆資料館を訪れた各国首脳の記帳にかすかな希望が見いだせた。それが個人的な『思い』や『願い』であっても、いつか世界を変えるきっかけになるかもしれない」と期待を表明した。広島ビジョンは核兵器が抑止力となる現状を肯定した上で削減と不拡散を求めた。静岡は「現実的な進め方を探るとなるとやむを得ないかもしれない」と一定の理解を示した。

 北國は「核廃絶を明確に打ち出さなかったことに被爆者らから不満や批判が出ているが、現実問題としていま核抑止力をなくすことはできず、妥当な判断」だとみた。

戦時下大統領の来日評価

 ゼレンスキー氏に関し、毎日は「戦時下の大統領が電撃来日し、被爆地を訪れた。世界に発した『不戦』のメッセージは重く、大きい」、山陽は「侵略国と戦っている指導者の発信で、サミットの重みが増した」と記した。京都は、インドなどはロシア制裁に参加していないとして「ゼレンスキー氏が直接、首脳に和平への協力を呼びかけた意味は大きい」と評価した。

 中日・東京は、首脳声明におけるウクライナへの支援とゼレンスキー氏への連帯の表明について「米国の覇権が揺らぐ中、G7が結束して国際秩序の立て直しを図る意思を示した」と考察した。

 産経は、ウクライナ支援の強化などを通じ、結束の固さを証明していくべきだとした上で、「それにはG7議長国の日本も殺傷力を持つ兵器の提供を実現するときである」と主張した。

 一方、北日本は「パフォーマンス先行で、和平は置き去りの感は拭えない。戦争をどう終結させるかを話し合った跡は見えなかった」と問題提起。福島民友も「終盤はウクライナへの武器支援が注目され、停戦への具体的な議論が聞こえてこなかった」と嘆いた。

 北海道は「力と力の対決を強めるだけでなく、G7として外交努力を尽くすことを忘れてはならない」とくぎを刺した。日経も「『広島』をウクライナ和平の実現に向けた転機とすべきだ」とし、G7に対し「戦争の出口を探る外交努力にも力を入れる」ことを求めた。

 読売は今年1年間、日本がG7の議長国であるとして「サミットで役割が終わったわけではない。折に触れ、オンラインで首脳会合を開くなど、指導力を発揮せねばならない」と訴えた。(審査室)

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