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2023年 9月12日
延期や撤回の決断迫る 政府、保険証の来秋廃止維持

マイナ制度 信頼回復が先決

 マイナンバーカードを使った証明書発行サービスで、今年3月に住民票の写しの誤交付が確認された。これ以降、カードを巡るトラブルが次々と明らかになっている。カードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」のひも付けの誤りは計8400件超。個人情報の誤登録や漏えいを不安視する声は非常に多い。来年秋の健康保険証廃止の方針を維持するという政府に対し、各紙は社説・論説で廃止時期の見直しなどを迫った。

資格確認書延長に疑問符

 岸田文雄首相は8月4日の記者会見で、現行方針を当面維持する一方、マイナ保険証を持たない人に交付する「資格確認書」については有効期限を「最長1年」から「最長5年」に延長すると発表した。

 産経は「資格確認書の利便性を高めて不安を解消したいのだろう。だが、これを保険証と同等に使えるようにすればするほど、かえって資格確認書に変更する必然性は薄れる。そこにどれほどの意味があるのか首をひねる」と疑問を呈した。その上で「来秋の廃止にこだわらず現行の保険証を併用する方がわかりやすい。その間にマイナカードに関わる総点検を進め、信頼回復に全力を注ぐべきだ」と訴えた。

 毎日は「現行の保険証も来秋から1年間の猶予期間があるため、25年秋まではマイナ保険証、資格確認書と三つが並立することになる。暫定的な措置だったはずの資格確認書が長期間使われることになる。対象者も膨れ上がり、発行する手間と事務コストが増大する。それならば、保険証の期限を延ばせば済む話ではないか」と指摘した。中国も「資格確認証の発行に伴い、健保組合や自治体には新たな事務作業とコストが生じる。国が対応策を次々に丸投げし、自治体を疲弊させた新型コロナウイルス禍の失敗と同じにおいがする」と否定的な見解を示した。

 西日本は「資格確認書は現行の保険証と実質的に変わらない。保険証の期限を延長すれば済む話だ」とした上で、「廃止時期の変更には法律の再改正を伴うが、既定方針に固執することはない。国民の不安をなくすことを何より優先すべきだ」と柔軟な対応を求めた。南日本も「延期を表明すべき状況は、既に現時点でそろっているのではないか。信頼の回復を最優先に考え、まずは総点検に総力を挙げてシステムと制度設計の見直しに取り組むべきである」とした。

 保険証の廃止撤回を求める主張も複数あった。愛媛は「一本化ありきでなく廃止撤回にまで踏み込むよう求めたい。撤回や延期には今年6月に成立したばかりの改正マイナンバー法を再改正する必要があるが、ためらってはなるまい」とした。北海道も「小手先のびほう策で乗り切ろうとしても、かえって混乱を広げるだけだ。首相が本気で問題に立ち向かうのであれば、まずは保険証廃止の方針を撤回するのが筋である。その上で、制度そのもののあり方を再検討するべきだ」と強調した。

 沖タイは「個人情報は政府のものではない。普及を急ぐことで弊害が露呈している現実を直視し、ここはいったん立ち止まるべきだ」と主張。「現行の健康保険証の廃止を撤回すべきだ」と注文を付けた。信濃毎日も「そもそもマイナカードの取得は任意である。現行の保険証を存続させるべきだ」と論じた。

 一方、デジタル化の推進は引き続き重要であるとの見方もあった。日経は「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進力が弱まる事態は避けなければならない」とした上で、「保険証が実質的にアナログとデジタルの選択制になったことで、今後は国民に選ばれるマイナ保険証にすることが医療DXを実現する上で決定的に重要になった」とした。

場当たり的な対応批判

 首相に加え、河野太郎デジタル相にも批判が相次いだ。神戸は「カード普及に躍起になるあまり、生煮えで進め、次々と浮かぶ課題に場当たり的に対応しているのが実情だ。首相の指導力欠如は深刻で、マイナンバー制度と政権への信頼は大きく揺らいだ」とみた。読売は「マイナカードを巡るトラブルの影響で内閣支持率は下落した。支持率の低迷が続けば、重要政策を円滑に遂行することは困難になる」と懸念を示した。

 朝日は「そもそもの混乱の発端は、マイナンバーカード普及の旗を振る河野太郎デジタル相が、昨秋に健康保険証の完全廃止を打ち出したことにある」と指摘。「保険証廃止を先に決め、そのことによって生じる問題への対応を今ごろ検討する。順序が全くあべこべだ」と批判した。中日・東京は「ひも付けのミスについて、河野太郎デジタル相は自治体など現場の『認識の薄さ』を指摘したが、確認手順を準備していなかった政府の不手際こそミスの元凶だ」と断じた。(審査室)

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